抄録
本邦は諸外国に比べて精神病床数が多く、長期入院患者も多い。地域移行では精神障害者が地域で生活するための支援体制構築が必要となるが、その中に障害者のセルフマネジメント力を向上できるような支援も組み入れていくことが重要と思われる。一方、新しい抗精神病薬が様々な剤型とともに上市され、また治療抵抗性統合失調症の唯一の治療薬といわれるクロザピンも上市されている。さらにドパミン過感受性精神病の理解により統合失調症の進行性に関してもとらえ方が変化してきている。これらは統合失調症患者の地域精神医療を促進するものであろう。また双極性障害のうつ状態の治療薬選択に関する考え方が大きく変わったことによってうつ病そのものの治療への見直しがなされてきている。しかし双極性障害では気分症状の変動が大きく、薬物以外でのコントロールも必要である。情報技術(IT)と人工知能(AI)を応用したスマートフォンのアプリケーションも開発されてきており、双極性障害患者のセルフマネジメント方法の発展が期待される。また、コロナ禍に若者の自殺者数が増え、児童思春期青年期の精神保健の重要性が更に増してきている。児童思春期青年期におけるセルフマネジメント力を向上させてレジリエンスやメンタルヘルスの向上を目指すことも重要と思われる。ところで最近では非行と双極性障害の関係も指摘されてきており、精神医学のより積極的な関与が必要と考えられる。