抄録
近年の鏡視下手術の進歩は,骨盤深部における拡大視野の確保を容易にし,術後の排尿機能や性機能の温存を目指した,より繊細な手術を行ううえでの骨盤内解剖の理論的再構築を促したといえる.その結果として,この10年における前立腺全摘除術の進歩は目覚ましく,良好な腫瘍学的かつ機能的予後の改善が可能となってきている.今回骨盤外科解剖序論の執筆をお願いした佐藤達夫先生は,長きにわたり骨盤解剖の基礎研究に携わって来られ,その理論的根拠は臨床外科学との共同研究を通じて,機能温存手技向上のために応用されてきた.絹笠祐介先生と椿昌裕先生には,消化器外科の立場から直腸癌手術の際の機能温存手技について解説していただき,櫻木範明先生には婦人科の立場から子宮頸癌に対する広汎子宮全摘術における自律神経温存手技について解説していただいた.また前立腺全摘除術に役立つ骨盤内解剖を解説していただいた武中篤先生は,新鮮献体を用いた骨盤解剖の基礎研究を行われ,米国コーネル大学チームとの共同研究を通じて,ロボット補助鏡視下前立腺全摘除術における機能温存手技の改善に大きく貢献された.最後に鴨井和実先生に前立腺全摘除術における機能温存手技を実際の臨床経験に基づいて提示していただいた.本特集では,骨盤外科に役立つ解剖学的基礎の解説とともに,鏡視下手術時代のより詳細な骨盤内解剖の理解と各科における横断的な機能温存手術の提示を試みた.この特集を通じて,泌尿器科鏡視下手術手技のさらなる向上の一助となれば幸いである.