2012 年 15 巻 3 号 p. 459-462
症例は55歳の男性。主訴は腹痛。既往歴,家族歴に特記事項なし。現病歴は,2日間排便がないため,入浴した後に自分で摘便をしようと衣類ハンガーの針金を肛門に挿入した。そのハンガーが抜けなくなり,自分で強引に抜去した後に突然の腹痛を認め,約12時間後に救急センターを受診した。血圧135/82 mmHg,体温37.8℃,脈拍99回/分,下腹部全体の筋性防御を認めた。血液生化学データでは,白血球数,CRPの軽度上昇以外明らかな異常を認めず,腹部X-P検査にて両側横隔膜下に遊離ガス像を認めた。腹部CT検査でも骨盤内に少量の腹水と遊離ガスを認めた。同日,直腸穿孔による汎発性腹膜炎の診断で緊急手術(ハルトマン手術)を施行。病理標本所見では,下部直腸から上部直腸にかけて長軸方向約15cmの裂創を認めた。術後人工呼吸管理,エンドトキシン吸着療法(polymyxin B-immunobilized fiber colum direct hemoperfusion: PMX-DHP)を施行し,第44病日軽快退院した。肛門異物での直腸損傷例も検索したが,針金式ハンガーを肛門に挿入した報告例は本邦では認めず,海外文献を検索すると“coat-hanger''を用いた例が1例あるのみであった。