日本臨床救急医学会雑誌
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15 巻, 3 号
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原著
  • 一胸骨圧迫の姿勢が質に及ぼす影響一
    安田 康晴, 加藤 義則, 田中 重陽, 熊川 大介, 杉本 勝彦, 角田 直也
    原稿種別: 原著
    2012 年15 巻3 号 p. 377-381
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    救急車内でのCardiopulmonary Resuscitation(CPR)は,傷病者の予後に大きく関与する。本研究は,救急車内での胸骨圧迫の質を確保する対策について検討した。救急救命士養成課程大学生10名を対象に,床(床群)とカットモデル救急車(救急車群),カットモデル救急車に足台置き(足台群),それぞれ3分間胸骨圧迫を行い胸骨圧迫の質を評価した。3分間の平均胸骨圧迫回数は,床群300.2±12.5回,救急車群300.3±15.2回,足台群314.9±13.3回で,足台群は床群と救急車群より各々有意に高値を示した(p<0.05)。胸骨圧迫深度は,床群44.8±2.4 mm,救急車群35.6±4.2 mm,足台群43.0±4.0 mmで,胸骨圧迫成功率は,床群95.4±4.1%,救急車群37.7±33.2%,足台群86.7±11.6%で,床群と足台群が各々救急車群より有意に高値を示した(p<0.05)。足台群の足台上面までの高さは19.9±3.9 cmであった。救急車内での胸骨圧迫の質は,床と同様に肘を曲げずに胸骨を垂直に圧迫する姿勢をとることにより向上することが示唆された。救急車内での胸骨圧迫面の高さを調整させる対策が必要である。

  • ―2種類のシリンジ交換方法における有害事象発生頻度と必要人的資源の比較―
    土屋 映美, 内橋 真由美, 五十嵐 太之, 屋良 朝範, 鈴木 勇希, 秋山 里美
    原稿種別: 原著
    2012 年15 巻3 号 p. 382-386
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    目的:当救命救急センター病棟(以下:当病棟)にて経験的に実施されているシリンジポンプ併用切替法(以下:切替群), シリンジポンプ併用段階変動法(以下:段階群)において,有害事象発生頻度および交換に必要となる人的資源を明らかにする。方法:当病棟における2009年1月から2010年12月に,連続循環動態評価を受けた86例のシリンジ交換406回を対象とした。診療情報記録より各パラメーターを抽出し,シリンジ交換から30分以内の有害事象発生率を明らかにするとともに,両群の人的資源を比較検討した。結果:有害事象発生率は,切替群5.8%,段階群4.6%,p=0.745であった。交換に要する人的資源は,切替群6.0±1.5(人×min),段階群11.5±4.8(人×min),p=0.006であった。結論:シリンジポンプ併用切替法は,複数段階で流量を変動させるシリンジポンプ併用段階変動法と同等に有害事象を回避する一方で,交換に要する人的資源を抑制することができ,より効率的な交換手法と考えられた。

  • 金田 浩太郎, 細本 翔, 宮内 崇, 河村 宜克, 小田 泰崇, 笠岡 俊志, 鶴田 良介
    原稿種別: 原著
    2012 年15 巻3 号 p. 387-392
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    目的:山口県宇部市におけるドクターカー運用の現状を調査するとともに,有効性の評価の一環として内因性院外心肺停止(CPA)患者に対する有効性を検討する。対象と方法:2003年8月1日から2009年9月30日までの期間のドクターカー出動記録および診療記録からドクターカーの運用状況を調査した。また,同期間に当院へ搬送された内因性院外CPA患者の予後を,ドクターカー搬送群と救急隊搬送群で比較検討した。結果:対象期間中のドクターカー出動件数は469件であった。約半数はドクターカー非接触となっており,搬送例のうち36%は内因性CPA患者であった。 ドクターカー搬送群と救急隊搬送群の間で内因性CPA患者の予後に有意差は認められなかった。救急救命士の特定行為が拡大されるに従って,救急隊搬送群の予後は改善傾向であった。病院前救護体制は変化しており,定期的に運用方法を再検討する必要があると考えられた。

  • 濱元 淳子, 山勢 博彰, 立野 淳子, 千明 政好, 原田 竜三, 山勢 善江
    原稿種別: 原著
    2012 年15 巻3 号 p. 393-400
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    目的:トリアージナースによるトリアージを実施した場合の救急外来での効果的診療について,JTASプロトタイプ導入前後で比較検討した。方法:対象は,5か所の救急医療施設のトリアージナース67名,救急医31名,および患者1,258ケース。 トリアージ調査票を用いて「トリアージにかかわる時間」,「緊急度判定」, トリアージナースの「アセスメント能力」を調査した。結果:「トリアージにかかわる時間」は「受付からトリアージ」が4.1分,「トリアージ判定」が45秒,「受付から診察」が10.5分,導入前より時間短縮した。「患者が体感した受付から診察までの時間」も18.2分短縮した。オーバートリアージは,導入後25.8%から8.9%に減少,アンダートリアージは,10.4%から2.5%に減少した。 トリアージナースと救急医の「緊急度判定」の一致率は,κ=0.419からκ=0.817に上昇した。「アセスメント能力」は,導入後に救急医の指示と高い一致を示した。

調査・報告
  • 井上 知美, 高田 幸千子, 横山 広行, 大西 純子, 嘉田 晃子, 米本 直裕, 小竹 武, 野々木 宏
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻3 号 p. 401-407
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    目的:国立循環器病研究センターで医師,看護師以外の全職員を対象とし心肺蘇生法(CPR)講習会を実施し,CPRおよびAEDに関する救命意識の変化から講習会の有用性を明確にすることを目的とした。方法:講習会に参加した,当院に勤務する医師,看護師以外の職員529名を,「医療従事者」「一般職員」の2群に分けた。1人1体の簡易型マネキンを使用したCPR講習会を実施し,講習会前後で質問紙調査を行い,CPR,AEDの実施の積極性および知識を比較した。結果:講習会前は救命に対する積極性および知識は医療従事者のほうが高かったが,講習会実施後はどちらの職種でも積極性および知識の向上が得られた。考察:医師,看護師以外の全職員を対象としたCPR講習会の有用性が示唆され,さらなる積極性の向上のためにはCPR実施における法的な責任問題などの説明を取り入れ,参加者の不安を解消することの必要性が示唆された。

  • 藤江 敬子, 安田 貢, 橋本 幸一, 中田 由夫, 原田 義則, 水谷 太郎
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻3 号 p. 408-417
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    目的:茨城県内の病院外心肺停止患者の救命成績を評価し,救命率向上の可能性を考察する。方法:茨城県北部地区メディカルコントロール協議会管内で2004~2009年に発生した病院外心肺停止例を対象とし,ウツタイン様式に従い集計して,救命活動と社会復帰率の推移を観察した。結果:心原性心肺停止例は6年間に1,282件発生し,その社会復帰率は全体で 3.1%,市民による心肺停止目撃例では6.1%であった。市民目撃例の社会復帰率はバイスタンダーCPR実施により約2倍になったが,バイスタンダーCPR実施率は42%にとどまっていた。2006年の救急蘇生ガイドライン変更後には,救急隊による目撃例では社会復帰率が2.6倍に上昇したが,市民目撃例では改善が認められなかった。結論:当該地域では全国と同等以上の救命率を示し,救急隊への蘇生知識と技術の浸透が示唆されたが,市民による救命活動は質と量の両面で改善が求められる。

  • 森脇 義弘, 麻生 秀章, 山崎 元靖, 中澤 暁雄, 藤田 誠一郎, 山分 規義, 武居 哲洋, 林 久人
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻3 号 p. 418-423
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    背景:指令管制員の口頭指導は,病院外心肺停止(以下OHCPA)例への市民の心肺蘇生(以下,CPR)を直接支援できる。非OHCPA例のOHCPAとの誤認やCPR合併症の懸念は,口頭指導やCPRを躊躇させる。非OHCPAへのCPR合併症の頻度を調査した。対象と方法:指令管制員の口頭指導を受け市民がCPRを実施したが,救急隊がOHCPAを確認できずCPRを実施していない症例(F-OHCPA例)で,横浜市救命指導医体制下の6病院に搬送された32例を対象とし,実臨床上必要で行われた検査,自覚症状と身体所見からCPR合併症を調査した。結果:6例で初期診療中にCPRの実施が判明し,入院は20例,死亡退院2例の死因はCPRとは無関係(脳出血,肺炎)であった。CPR合併症と思われる病態は認めなかった。結論:F-OHCPA例への市民による短時間のCPR合併症は低頻度で,OHCPAと確証しきれない症例への口頭指導と市民のCPRは安全と思われた。

  • 三村 誠二, 松本 康代, 坂東 美絵, 森吉 恭子, 大村 健史, 筑後 文雄, 増原 淳二, 武市 一仁, 田中 裕樹
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻3 号 p. 424-428
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    医療現場におけるOff-the-job trainingは,日常診療に必要なスキルの獲得において非常に重要な位置を占めている。当院はER型救急外来であり,診療にあたって心肺蘇生や外傷処置のコース受講は必須と考える。外傷診療に関して,JPTEC(Japan Pre-hospital Trauma Evaluation and Care),およびJATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)の内容を組み入れた,オリジナルの外傷トレーニングコースを院内で開催している。コンパクトな内容とすることで受講しやすくし,また本格的コース受講のmotivationを向上させたと考えられるが,「防ぎ得た外傷死」を減らすことに寄与しているかどうかは現段階では評価できない。

  • 千代 孝夫, 木内 俊一郎, 新谷 裕
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻3 号 p. 429-434
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    日本赤十字社和歌山医療センターは定期的に大規模災害訓練を主催しているが,今回,その参加者にアンケート調査を行い訓練の成果や問題点を抽出し,解決に向けた方策の検討を行った。和歌山県内の医療機関から340名が参加して,63名の模擬患者に対して災害医療訓練を行った。154名から得たアンケートでは訓練経験回数が3回以下の経験の浅い人が多かった。災害対策で最も重要と思うものは「災害訓練」で,最も不安なことは「知識不足」,「家族の安全・健康状態」であった。全体の統制,指揮体制,連携と情報伝達などが不十分であるとの回答が多かった。訓練への参加の有意義度は10段階で6以上が129名と評価は高かったが,「自信がついた」は53名と少なかった。企画者は,訓練をよりいっそう魅力あるものにして,参加へのモチベーションを上げなければならない。多回数の参加経験者を増やしリーダー役を多く育成することで,訓練自体も成熟し,訓練内容レベルが上がっていくものと期待できる。

  • 小林 信一, 長谷川 伸之, 飯島 善之, 田﨑 洋太郎
    原稿種別: 調査・報告
    2012 年15 巻3 号 p. 435-440
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    目的:現場活動に有効な事後検証会のあり方について報告する。対象・方法:平成22年8月9日開催の事後検証会で検討された課題,1.ドクターカー要請,2.メディカルコントロール(Medical Control,以下,MC)内外の消防の連携,これら2件において,1.平成21年10月1日のドクターカー運用開始から平成22年11月30日までの126件で要請タイミングの変化と,2.具体的事例で検証した。結果:前期(H21.10.1−H22.8.9):要請件数63件/10か月,通信指令課要請16件。後期(H22.8.10−11.30):要請件数63件/4か月,通信指令課要請41件。通信指令課要請が増加した。具体的事例は,隣接MCの消防と連携した高速道路事例とMC内消防連携による山岳救助例で,事後検証会での意見交換が現場活動に活かされた。結論:さまざまな職種間で課題を検証し,テーマを組んで自ら問題症例を発表する方法は,現場活動にすぐに反映されて有効であると考えられた。

臨床経験
  • 久保田 芽里, 伊東 宏美, 石田 浩美, 福田 篤久
    原稿種別: 臨床経験
    2012 年15 巻3 号 p. 441-445
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    目的:尿中乱用薬物分析キットであるINSTANT-VIEWTM M-I(INSTANT-VIEW)を使用する機会を得たので,従来から多くの救急施設で使用されているトライエージDOA(トライエージ)との比較検討を行った。対象:当センターに搬入された831例のうちトライエージを施行し,かつ陽性であった92例の中で検体が保存されていた29例を対象とした。方法:INSTANT-VIEWとトライエージとの仕様比較,および互換性について,さらにカルテから服用したと思われる薬物を抽出し,薬物分析結果と比較検討した。結果:仕様比較について,検出薬物,検出感度,使用方法,判定方法などそれぞれに違いを認めた。また,対象患者29例の検体を用いてINSTANT-VIEWを施行した結果,トライエージと一致したものが19例であり,不一致のものが10例であった。結論:INSTANT-VIEWは,従来より用いられているトライエージと同様,薬物中毒や原因不明の意識障害の原因検索に有用なスクリーニングキットである。

症例・事例報告
  • 斎藤 奈津子, 冨岡 秀人, 伊東 剛, 宮武 諭, 加瀬 建一, 小林 健二
    原稿種別: 症例報告
    2012 年15 巻3 号 p. 446-449
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    症例は34歳女性,うつ病の治療中であった。自宅で唸り声をあげ痙攣し救急搬送された。重度の低血糖を認めたが糖尿病の既往はなかった。中心静脈カテーテルから50%ブドウ糖を持続投与したが,遷延性低血糖の改善はみられなかった。家族が確認したところ,夫のグリメピリド(1錠3mg)25錠がなくなっていた。自殺企図によるグリメピリド過量内服による低血糖と判断し,オクトレオチド100μl皮下注を6時間ごとに開始した。投与後は低血糖発作を認めず,意識レベルは改善し,後遺症なく経過した。この症例では,入院直後より6時間ごとに採血しインスリン/グルコース比を算出した。オクトレオチド投与前はインスリン分泌過剰であったが,投与後は速やかに正常範囲内となり,オクトレオチドが低血糖治療に効果があったことの根拠になりうると考えられた。近年,スルホニル尿素薬による遷延性低血糖症の治療にオクトレオチドが著効した報告があり,若干の文献的考察を加えて報告する。

  • ―急激に悪化した発熱症例―
    鈴木 一郎, 浦山 雅和, 鈴木 均, 前川 重人, 藤峯 拓哉
    原稿種別: 症例報告
    2012 年15 巻3 号 p. 450-454
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    70歳代の女性症例を報告する。本例は関節リウマチを60歳時に発症し,約3年後より当院整形外科で加療していた。疾患修飾性抗リウマチ薬,ステロイド薬などによる治療を行い,約12年間は多関節痛の自覚症状が主体で病変進行は緩徐であった。この間に頸椎環軸関節亜脱臼を認めたが,脊髄症状は発症しなかった。しかし,ステロイド内服薬の減量後,脊髄症状が現れると同時に,心外膜炎,胸膜炎併発を認めた。ステロイド内服量を一気に増大すると,心外膜炎,胸膜炎だけでなく脊髄症状も改善した。約1年後に胸膜炎再発で入院したが,ステロイド薬の追加,増量を行わずに治療し,軽快退院した。しかし,直後に高熱を生じ,ショックに陥り,呼吸器症状が悪化して,2日間の経過で死亡した。関節リウマチ患者が高熱を発症した場合,急性呼吸不全などの臨床症状が遮蔽されている可能性があり,急変する危険性と緊急性を考慮した積極的な診察,対応が重要である。

  • 荒井 裕介, 飯塚 亮二, 石井 亘, 小田 雅和, 小田 和正, 榊原 謙, 篠塚 健, 檜垣 聡, 北村 誠
    原稿種別: 症例報告
    2012 年15 巻3 号 p. 455-458
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    症例は38歳女性。心窩部痛を主訴に救急受診した。初診時腹部X線・腹部超音波検査では明らかな異常を指摘できず,翌日精査目的にて再受診とし,上部消化管内視鏡検査を施行したが異常を指摘できなかった。腹部CT検査を施行したところ,肝外側区下部を貫通する針状の高吸収域を認めた。金属異物の肝刺入を疑い,腹腔鏡下異物除去術を施行した。金属異物は肝外側区域を貫通しており,肝下面より除去した。異物は25mmの軟らかい金属であった。術後経過順調であり,5日目に軽快退院となった。腹腔内異物の侵入経路としては,誤飲した既往は明らかでなかったが,おそらく誤飲した金属異物が消化管より穿通したものと考えられた。今回われわれは誤飲のエピソードがなく心窩部痛を主訴に来院し,診断に難渋した腹腔内異物の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する。

  • 皆川 幸洋, 下沖 収, 遠野 千尋, 藤社 勉, 高橋 正統, 阿部 正
    原稿種別: 症例報告
    2012 年15 巻3 号 p. 459-462
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    症例は55歳の男性。主訴は腹痛。既往歴,家族歴に特記事項なし。現病歴は,2日間排便がないため,入浴した後に自分で摘便をしようと衣類ハンガーの針金を肛門に挿入した。そのハンガーが抜けなくなり,自分で強引に抜去した後に突然の腹痛を認め,約12時間後に救急センターを受診した。血圧135/82 mmHg,体温37.8℃,脈拍99回/分,下腹部全体の筋性防御を認めた。血液生化学データでは,白血球数,CRPの軽度上昇以外明らかな異常を認めず,腹部X-P検査にて両側横隔膜下に遊離ガス像を認めた。腹部CT検査でも骨盤内に少量の腹水と遊離ガスを認めた。同日,直腸穿孔による汎発性腹膜炎の診断で緊急手術(ハルトマン手術)を施行。病理標本所見では,下部直腸から上部直腸にかけて長軸方向約15cmの裂創を認めた。術後人工呼吸管理,エンドトキシン吸着療法(polymyxin B-immunobilized fiber colum direct hemoperfusion: PMX-DHP)を施行し,第44病日軽快退院した。肛門異物での直腸損傷例も検索したが,針金式ハンガーを肛門に挿入した報告例は本邦では認めず,海外文献を検索すると“coat-hanger''を用いた例が1例あるのみであった。

  • 小寺 厚志, 米満 弘一郎, 米井 美樹, 中嶋 いくえ, 白井 純宏, 福永 崇, 川野 雄―朗, 門野 義弘, 具嶋 泰弘, 前原 潤一
    原稿種別: 症例報告
    2012 年15 巻3 号 p. 463-467
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    症例は53歳の男性で,アルコール依存症であった。約1か月前から風邪気味で,数日前から食事をとれず,嘔吐と下痢のため救急搬送された。意識は清明だが,血圧67/38 mmHg,心拍数124回/分とショックであった。血液検査所見からアルコール性ケトアシドーシスを疑い,ブドウ糖,細胞外液,カテコラミン,重炭酸ナトリウムによる治療を開始した。入院後に発熱がみられ,血液培養からClostridium perfringens(ウェルシュ菌)が同定されたため,ウェルシュ菌による敗血症性ショックと診断した。抗菌薬の投与で症状は軽快し,第14病日に退院となった。本症例はアルコール依存症による栄養障害が疑われ,日和見感染症が起こりやすい状態と考えられた。さらに敗血症性ショックヘ進展した原因の1つとしては,腸内細菌であるウェルシュ菌の消化管でのbacterial translocationの可能性が考えられた。

  • ―保護についての考察―
    北小屋 裕, 横堀 將司
    原稿種別: 事例報告
    2012 年15 巻3 号 p. 468-471
    発行日: 2012/06/30
    公開日: 2023/02/17
    ジャーナル フリー

    当管内で発生した自殺企図を繰り返す精神疾患傷病者への保護事例を報告する。傷病者は,知的障害のある境界型人格障害と診断されている20歳女性で,自ら手根部を切り自殺を図ったとのことで救急要請があった。現場観察では手根部切創は軽症で搬送の必要性はなかったが,負傷部位を観察している際もたびたび自宅2階からの飛び降りを企図した。本人が通報者であったにもかかわらず,搬送については頑なに拒否し,また家族も傷病者の搬送を強く拒否したため搬送に苦慮した。本傷病者は,自殺を企図しない冷静な状態も持続するため措置入院の対象にならず,また家族の同意も得られず医療保護入院もできなかった。精神症状のみでは,救急業務外であったが,保健所の待機要請のため長時間の待機を余儀なくされた。精神疾患傷病者や虐待児の搬送に際し,傷病者や関係者が搬送を拒否した場合,しばしば搬送困難症例を経験する。傷病者保護の点から,強制力のある傷病者搬送システムを考慮する必要がある。

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