抄録
抗N-methyl-D-aspartate(以下NMDA)受容体脳炎とは中枢神経細胞のNMDA 受容体に対する抗体を介して発症する自己免疫性脳炎で,若年女性に好発し,統合失調症様の精神症状と卵巣奇形腫の合併が高率にみられる。腫瘍摘出と免疫抑制療法が症状改善につながることもあり比較的予後良好な疾患であるが,高率に痙攣発作や中枢性低換気を合併し,回復までの経過が長期にわたることもあるため厳重な集中治療管理を行うことが重要である。今回,われわれは,免疫抑制療法が奏功せず長期間にわたり集中治療管理を要した,30歳代の女性の卵巣腫瘍非合併抗NMDA受容体脳炎の1 例を経験した。救急領域においても本疾患を認知し,感冒症状を伴う急性発症の精神症状,原因不明の痙攣発作や意識障害に対して本症を疑い,早期診断のうえ積極的な治療を行うことが重要である。