日本臨床救急医学会雑誌
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16 巻, 5 号
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原著
  • 種田 靖久, 森 博美, 吉村 知哲, 山口 均, 高須 昭彦, 安田 忠司
    2013 年 16 巻 5 号 p. 625-631
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    デクスメデトミジン(以下DEX)は,呼吸抑制作用が軽微な鎮静薬であるが,循環器系への作用に徐脈の危険性や血圧低下などの問題がある。今回DEXの使用適正化に向けてICU専任薬剤師として鎮静プロトコルを作成し介入を行った。鎮静プロトコル導入前と比較し,導入後ではBolus投与率が減少する傾向を示し(13.2% vs. 3.5%,p=0.0569),副作用発現率が有意に減少した(42.1% vs. 23.3%,p=0.0472)。DEX平均投与量,併用鎮静薬剤の投与量,挿管日数については導入前後で差は認められなかった。また,Bolus投与群では,非Bolus投与群と比較し副作用発現までの時間が有意に早くなり(1.8hr vs. 3.6hr,p=0.0085),Bolus投与と副作用発現の関連性が示唆された。ICU専任薬剤師として,薬剤の適正使用に積極的に関わることにより副作用軽減につながると考えられる。
  • 清村 紀子, 鹿嶋 聡子, 時吉 佐和子, 寺師 榮, 有田 孝, 伊藤 直子, 工藤 二郎
    2013 年 16 巻 5 号 p. 632-642
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    本研究は,中学生へのCPR教育の意味を質的に明らかにし,Kolb経験学習理論を基盤に考察することを目的とする。A地域の中学生53人に対し,簡易型キットを用いたCPR教育実施後に「いのちについて考える」をテーマに記載を求めた作文から,意味ある内容を文章単位で抽出し内容分析した。18部の作文から抽出した193のテクストデータから,【いのちと人とのつながり】,【救急医療に対する認識の高まり】,【思春期における成長】,【バイスタンダーCPRを拡大する上での課題】,【中学生のCPRに関する認識と認知度の実態】の5カテゴリを抽出した。中学生はCPR教育をきっかけとし,知識・技術の習得のみならず,救急医療の現状の課題への理解やバイスタンダーとなることを現実的に実感することに加え,いのちや人とのつながりについて深慮しており,中学生へのCPR教育がいのちの教育や成長発達に意義あることが示唆された。
調査・報告
  • 山田 法顕, 豊田 泉, 山田 実貴人, 玉田 佳樹, 山川 弘保, 加藤 雅康, 熊谷 守雄, 吉村 紳一, 岩間 亨, 小倉 真治
    2013 年 16 巻 5 号 p. 643-648
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    血栓溶解療法が施行されるようになって以降,脳卒中初期診療の重要性が認識され,各地でISLS(Immediate Stroke Life Support)コース,PSLS(Prehospital Stroke Life Support)コースが開催されている。岐阜県では,2006年12月から2011年12月までに25回のISLS コースを開催。2009年4月からPSLS講習会を開始し,PSLSに準じた脳卒中初期診療プロトコル(以下プロトコル)を全県下で運用を開始した。2011年12月までに,県内各地で計24回のPSLSコースを開催。プロトコル運用については,活動検証票への活動内容の記載を義務付け,各地域メディカルコントロール協議会での検証を行うこととした。岐阜県におけるこれらの標準化の実際と,各地域における取り組みの温度差等の課題,より効果的な運用等の展望について報告する。
  • 吉野 美緒, 重村 朋子, 市村 美帆, 稲本 絵里, 川尻 泰樹, 増野 智彦, 松井 豊, 横田 裕行
    2013 年 16 巻 5 号 p. 649-655
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    病院前救急診療活動(以下PCとする)に従事する看護師の出場前・活動中の心理状態を把握し,精神的健康との関連を検討することを目的として, PCに従事する看護師(所属医療機関の年間出場数50件以上)を対象とした質問紙調査を実施した。調査期間2010年9月末から10月。有効回答率67%(257名中173名)。PCに出場する看護師は,出場前に「どんな現場か気になる」「患者の状態がわからない」「状況が自分の能力を超えているかもしれない」と不安をもつ一方で,出場に使命感を持っていた。活動中にも,6割以上の看護師が使命感を持っていた。精神健康調査票(GHQ-12)で測定された精神的健康度不良群の割合は33.7%であり,予測できない現場状況・患者状態に対する自身の対応能力への不安,活動中の無力感や罪悪感が,精神的健康に関連していた。
  • 田島 典夫, 高橋 博之, 畑中 美穂, 青木 瑠里, 井上 保介
    2013 年 16 巻 5 号 p. 656-665
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    はじめに:バイスタンダーによるBLS は,実施者に相当な精神的負担がかかると想定されるが,これに関する研究自体が少なく対策も進んでいない。そこで,バイスタンダーのストレス反応を明らかにし,心のケアに関する対策を検討することを目的として調査を行った。対象と方法:2008年8月から2011年10月までの間にバイスタンダーによるBLSが実施されて社会復帰した事案のうち,バイスタンダーの連絡先を把握している事案を抽出し,当該事案の救助に携わった者を対象に面接調査を実施した。結果:多くのバイスタンダーがさまざまなストレス反応を経験していた。また,その体験を他者に話して,自分の気持ちを理解してもらいたいと考える者が多かった。結論:BLS教育において,BLS実施によるストレスとその対処法に関する教育を考慮する必要がある。さらに対策の一環として,相談を受けるシステムを整備することが有用であり,急務であると考えられる。
  • 江川 香奈, 太田 祥一, 宮間 最弓, 長澤 泰, 依田 育士, 大西 正輝, 織田 順, 行岡 哲男
    2013 年 16 巻 5 号 p. 666-670
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    救急処置室(ER)は,限られた時間軸の中で,多職種によるチーム医療が展開されており,かつ蘇生や手術から看取りまで様々な異なる用途で使用されている。そこで,われわれは,ERにおける蘇生法施行時(蘇生時)と蘇生法中止後の患者家族への説明時(蘇生法中止後)の使用を定量的に把握し,ER設計に役立てることを目的に本研究を行った。方法はER内にユビキタスステレオビジョンカメラを設置し,蘇生時と蘇生法中止後の対象者全員が使用した床面積,蘇生時と蘇生法中止後の医師と看護師の使用が重複する部分の床面積,蘇生時と蘇生法中止後の対象者全員の使用が重複する部分の床面積を算定し,以下の事項を明らかにした。1)必要床面積は少なくとも3.50m × 5.50m の約20m2 であった。2)蘇生時と蘇生法中止後では使われ方が異なる。3)救急カート周辺が多職種で使用が重複するので,救急カートをどの位置に配置するかは設計上,重要である。
  • 黒澤 昇, 木村 徹, 有馬 健, 池上 敬一
    2013 年 16 巻 5 号 p. 671-676
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    目的:埼玉県東部地域における精神科救急の現場滞在時間についての実態調査を行い,その現状を報告し,問題点を検討する。対象と方法:2009 年4 月から5 月末日までの2 カ月間に当協議会管内で発生し救急搬送された8451 症例のうち,精神疾患の715 症例を対象とした。結果:要因として,①事故種別において自損行為群が現場滞在および医療機関選定の際,有意に時間が延長していた。②既往のある群において現場滞在,医療機関選定,1 件あたりの問合せ,いずれも有意に時間が延長していた。結論:非精神科救急に比べ精神科救急において現場滞在時間が長時間となった要因について調査したところ,身体合併症を有する精神科疾患患者,また精神疾患の背景因子を有することがその要因であることが判明した。精神科救急における現場滞在時間の短縮には,地域精神科医の協力や精神科および一般救急医療機関間での精神科救急搬送システムの構築などが急務と考えられた。
症例報告
  • 馬越 健介, 西山 隆, 菊池 聡, 大坪 里織, 大下 宗亮, 相引 眞幸
    2013 年 16 巻 5 号 p. 677-681
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    症例は70代男性,高血圧内服加療中。右大腿部痛を自覚し,近医を受診。翌日,症状悪化のため総合病院を受診し,当科に紹介された。来院時ショック状態。右大腿部の皮膚および皮下,筋膜が壊死しており,壊死性筋膜炎の診断で患部デブリードマンを施行し,A群溶血性連鎖球菌が検出された。ペニシリンGに加え,γグロブリン製剤投与,エンドトキシン吸着療法を行い,術後3 病日からV.A.C. ®ATSシステムを用いて陰圧閉鎖療法を施行した。創部の良好な肉芽を得て,入院31病日に分層植皮術を施行した。劇症型A群溶血性連鎖球菌感染症による四肢壊死性筋膜炎は患肢切断を余儀なくされる場合が多いが,早期デブリードマン後に陰圧閉鎖療法を行い,患肢を温存した症例を経験した。
  • 徳田 隼人, 中村 覚粛, 村上 大道, 家永 慎一郎, 白馬 雄士, 冨岡 譲二, 一ノ瀬 誠
    2013 年 16 巻 5 号 p. 682-686
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    症例は90代女性。受診5日前より右顔面違和感を自覚し,4日前より開口障害があり,当院へ紹介来院された。来院時,右側末梢性顔面神経麻痺を伴う開口障害と血圧変動を認めた。経過から破傷風と診断し,集中治療室(以下ICU)へ入院した。全身性痙攣が頻発したため鎮痛鎮静下に人工呼吸管理としたが,右側顔面神経麻痺は持続した。最後の全身性痙攣が第63病日に観察され,同日以降右側顔面神経麻痺も消失した。本症例は,片側脳神経麻痺で発症した脳神経型破傷風が,全身型へ移行したものであったが,2つの型の破傷風が同時期に改善した点でもまれでありこのような報告例は他に見当たらなかった。脳神経麻痺が典型的な破傷風症状である開口障害に先行する場合,初期診断を誤る可能性がある。近年高齢者の破傷風症例が増えているが,予後は若年者と変わらないという報告もある。本症例も積極的な集中治療で後遺症なく社会復帰できたので報告する。
  • 川原 加苗, 荒武 憲司, 皆川 雄郷, 藤田 あゆみ, 友尻 茂樹
    2013 年 16 巻 5 号 p. 687-690
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    症例は40代の女性。自宅で朝食後,通勤中に気分不良あり。以前から発疹などの症状があったため,抗アレルギー薬を処方されていた。今回もその時の症状と似ていたため,抗アレルギー薬を内服したが勤務先の病院で意識消失した。血圧を測定すると50mmHg台であり全身の発赤も認めたためアナフィラキシーショック疑いにて,処置後救急車で当院に搬送となった。到着時,意識レベルは改善していたが呼吸器・皮膚症状が残存する状態であった。朝食を摂食してから時間が経過して現れた症状であったが,症状消失後の問診にて出勤前にパンを摂食していたこと,以前もパンを摂食後に蕁麻疹の出現があったことを確認することができたことと,さらに現在問題となっている「茶のしずく石鹸」を以前使用していたのを聴取できたことにより小麦アレルギーを疑い検査を施行した。その結果,関連検査にて原因物質の同定に至ることができた。
  • 三輪田 俊介, 渡邉 出, 丸山 寛仁, 千田 麻友美, 上田 貴之, 吉本 純平, 武内 有城
    2013 年 16 巻 5 号 p. 691-695
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    抗N-methyl-D-aspartate(以下NMDA)受容体脳炎とは中枢神経細胞のNMDA 受容体に対する抗体を介して発症する自己免疫性脳炎で,若年女性に好発し,統合失調症様の精神症状と卵巣奇形腫の合併が高率にみられる。腫瘍摘出と免疫抑制療法が症状改善につながることもあり比較的予後良好な疾患であるが,高率に痙攣発作や中枢性低換気を合併し,回復までの経過が長期にわたることもあるため厳重な集中治療管理を行うことが重要である。今回,われわれは,免疫抑制療法が奏功せず長期間にわたり集中治療管理を要した,30歳代の女性の卵巣腫瘍非合併抗NMDA受容体脳炎の1 例を経験した。救急領域においても本疾患を認知し,感冒症状を伴う急性発症の精神症状,原因不明の痙攣発作や意識障害に対して本症を疑い,早期診断のうえ積極的な治療を行うことが重要である。
  • 菊田 正太, 畑 倫明, 福島 英賢, 關 匡彦, 瓜園 泰之, 奥地 一夫
    2013 年 16 巻 5 号 p. 696-701
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    症例は80 歳代,女性。他院での入院中,腹痛・嘔吐を認め,血圧低下・意識障害を呈したため当院救命センターへ転院となった。初療時GCS E4V2M5,ドパミン 3.5μg/kg/min 投与下で血圧 53/13mmHg,著明な代謝性アシドーシス・高乳酸血症を呈した。腹部造影CT で広範囲の小腸壊死が疑われたが,上腸管膜動脈の血流に異常を認めず,非閉塞性腸管虚血症(NOMI)と考えられた。低体温と凝固異常を認めたため,一刻も早いショックからの離脱を目的に,再建を伴わない広範囲小腸切除術を短時間で施行し,ただちに集中治療を開始した。翌日に生理学的異常の改善を認め,残存壊死小腸の追加切除と腸吻合術を二期的に施行して軽快退院した。病理所見では腸管壁や腸間膜に血栓はなく,小腸粘膜の出血性壊死がみられ,NOMI に矛盾しない所見であった。ダメージコントロールサージェリーを適用することにより,NOMI のように著しい生理学的異常を伴う重症の内因性疾患でも救命の可能性が示唆された。
事例報告
  • 北小屋 裕, 近藤 久禎, 横堀 將司, 中田 敬司
    2013 年 16 巻 5 号 p. 702-706
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    老人保健施設で発生した心肺停止症例に対して,臨場した医師の具体的指示を受け,救急救命士が特定行為を実施した事案を経験した。この事案に対し,救急現場に医師が臨場している場合には医師が救命行為を実施するべきであり,たとえその医師から特定行為の具体的指示を受けたとしても救急救命士は特定行為を実施するべきではないとの指摘を地域メディカルコントロール協議会より受けた。救急救命士が特定行為を行いうる指示要件や場所的要件,医師が臨場した場合の救急救命士の特定行為について,救急救命士法の解釈を中心に考察した結果,医師臨場下で特定行為を実施することは法的には問題ないが,医師の身分確認やメディカルコントロール協議会との整合性などいろいろな問題点をクリアする必要性が明らかとなった。
資料
  • 大保 勇, 小坂 健太, 住田 知隆, 山口 聖和, 近藤 賢一
    2013 年 16 巻 5 号 p. 707-713
    発行日: 2013/10/31
    公開日: 2013/11/25
    ジャーナル フリー
    目的:救急医療機関におけるNuclear(核)テロ/Radiation(放射線)テロ(以下NRテロと略す)・災害による汚染を伴った高エネルギー外傷患者を対象とした院内二次汚染防止策,放射線サーベイの方法や診療放射線技師の役割はいまだ参考となるものは少ないため,診療放射線技師の視点からそれらについて整理すること。方法:『救急医療機関におけるCBRNEテロ対応標準初動マニュアル』 6)および『改訂第4版外傷初期診療ガイドラインJATEC(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)』(以下JATECと略す) 7)を参考に整理した。なお『救急医療機関におけるCBRNEテロ対応標準初動マニュアル』は数十人規模の対応レベルであり,除染前トリアージ(以下Pre DECON triage とする)エリアで放射線が検出された場合の診療手順に従い,除染よりも蘇生(ABCの安定化)を優先した場合の対応について整理した。結語:診療放射線技師の視点からNRテロ・災害による汚染を伴った高エネルギー外傷患者に対する院内二次汚染防止策,放射線サーベイの方法等,診療放射線技師の役割について明らかにし整理した。円滑な外傷初期診療や汚染拡大防止のために,われわれ診療放射線技師は,日常からチーム医療を実践し外傷初期診療ガイドラインおよび自施設での外傷診療を熟知しておく必要があると考えられた。
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