2020 年 23 巻 2 号 p. 179-185
目的:わが国でもテロリズムの可能性は高まっている。事例を踏まえた対策が必要であるが,わが国での発生数は少ない。2016年の津久井やまゆり園で起きた多数傷病者事案をもとにテロ対応を考える。事例:刺創による45名の傷病者にトリアージが行われ,赤20名,黄4名,緑2名,黒19名であった。重症者14名は分散搬送,残りの12名は北里大学病院へ集中搬送され,搬送された傷病者はすべて救命された。考察:北里大学病院ドクターカー活動の課題は,初動対応の遅れ,安全管理,頸部穿通性外傷のトリアージ,があがった。重症者の分散搬送,軽症・中等症者の集中搬送は現場の混乱を軽減した。結語:初動対応と安全管理の改善は多数傷病者対応,とくにテロ対策で重要である。わが国の少ない事案でテロ対策を進めるには課題と教訓の共有が大切であり,今後に継承すべき事案であった。