2021 年 24 巻 6 号 p. 801-806
血栓弁によるstuck valveは人工弁置換後の致死的な合併症であり,緊急手術を要することも多い。症例は大動脈弁置換術後(機械弁)の78歳,男性。突然の胸痛・呼吸困難にて搬送された。来院時血圧90/40mmHg,脈拍112回/分とショック徴候を認め,聴診で収縮期駆出性雑音を聴取し機械弁開閉音が消失していた。胸部単純X線写真にて肺うっ血像を認め,経胸壁心エコー検査で大動脈弁最大血流速度4.23m/秒と上昇しており,機械弁の機能不全に起因した急性心不全を疑った。冠動脈造影検査では冠動脈に異常はなかった。弁透視で機械弁の1葉の可動性が制限され閉鎖位でほぼ完全に固定しており,不十分な抗凝固療法(PTINR:1.1)に起因した血栓弁によるstuck valveと診断した。手術のリスクを鑑みてウロキナーゼによる血栓溶解療法を行い,第7病日の弁透視では機械弁のstuckは解除されていた。 左心系機械弁の血栓弁による症状が出現した場合,緊急手術または血栓溶解療法を症例ごとに選択する必要がある。本症例ではウロキナーゼによる血栓溶解療法が奏効し緊急手術を回避できた。血栓弁に対して,血栓溶解療法も選択肢となり得ると考えた。