日本臨床救急医学会雑誌
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24 巻, 6 号
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会告
原著
  • 宇野 知輝, 鈴木 慎太郎, 木村 友之, 能條 眞, 望月 薫, 伊地知 美陽, 田中 明彦, 相良 博典, 垂水 庸子, 土肥 謙二
    原稿種別: 原著
    2021 年 24 巻 6 号 p. 761-772
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    目的:成人アナフィラキシー患者の臨床的特徴をライフステージごとに調査し,どのような特徴が重篤な症状にかかわっているのかを検討する。方法:2010年1月〜2020年6月までに当院を受診し,アナフィラキシーと診断された成人患者507例を青年群230例,壮年群207例,高齢群70例に分け,診療記録から患者の特徴を後方視的に検討した。結果:最重症Grade 3を示した対象者の割合は青年群,壮年群,高齢群でそれぞれ54.8%,70.5%,81.4%であった。アナフィラキシーを重篤化・増幅させる因子を複数有する対象者の割合は青年群,壮年群,高齢群でそれぞれ21.3%,42.5%,55.7%であった。心血管疾患,精神疾患の併存は高齢群で多かった。結論:高齢群で重症者の割合が多く,服用中の薬剤や基礎疾患などのリスク因子が多いことが寄与している可能性を推察した。

調査・報告
  • 長島 公之
    原稿種別: 調査・報告
    2021 年 24 巻 6 号 p. 773-780
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    今般,法改正により救急救命士の業務場所が医療機関の救急外来まで拡大され,院内でのMC等に関する研修を受けることが義務づけられる方向である。日本医師会は,相当程度の教育・研修体制とMCが必須であり,需給見通しに基づく養成の視点も重要であることを表明している。今回,これまでの検討経緯と人口変動に関する資料より,業務場所の拡大に伴う教育とMC体制について考察を行った。これまで病院前救護体制を担う職種として制度設計,養成されてきた救急救命士が,医師や看護師等多様な職種が就業する医療機関内で業務を行っていくためには,日々のMCや研修を通してチーム医療の一員となることが求められる。また,超高齢社会,少子化による人口減少社会が進展し,地域医療構想による病床機能の分化,地域包括ケアシステムの構築が進められているなか,医療機関救急救命士に対するMCと研修にも院内外の連携の視点が取り入れられることが重要である。

  • 野々内 裕紀, 眞継 賢一, 時田 良子, 三木 寛之, 中井 秀樹, 伊藤 博美, 喜多 亮介, 大橋 直紹, 端野 琢哉, 濱口 良彦
    原稿種別: 調査・報告
    2021 年 24 巻 6 号 p. 781-790
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    薬剤師の集中治療室定数配置薬の在庫管理業務による経済効果は十分に明らかにされていない。そこで,われわれは定数の過不足・破損が報告された薬剤数および損失金額について薬剤師が集中治療室に常駐する前(2016年9月1日〜2018年8月31日)と後(2018年9月1日〜2020年8月31日)を比較して,定数配置薬の管理状況が改善するのかを調査した。 定数の過不足・破損が報告された薬剤数は薬剤師常駐後に329個から229個まで30.4%減少し,損失金額は192,910円から110,090円にまで42.9%減少した。ヒューマンエラーによる破損よりも管理状況に由来する定数の過不足を理由に報告された薬剤数が著しく減少した。薬剤師が集中治療室において定数配置薬の在庫管理業務を開始した後は,定数配置薬の管理状況が改善し,薬剤の定数不足や破損による経済的損失が減少した。

症例・事例報告
  • 薬師寺 秀明, 犬飼 公一, 川本 匡規, 天野 浩司, 茅田 洋之, 向井 信貴, 晋山 直樹, 臼井 章浩, 森田 正則, 中田 康城
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年 24 巻 6 号 p. 791-795
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    23歳の女性。1カ月前より皮膚科にて難治性蕁麻疹に対して,ジアフェニルスルホン(DDS)の内服を開始。交通外傷で当院に搬送となった。来院時に呼吸苦は認めなかったが,SpO2は酸素10L/ 分マスク投与下で92%と低値であった。右側胸部に圧痛を認め重症胸部外傷を疑ったが,画像検査では異常所見は認めなかった。来院時の動脈血ガス分析ではSaO2 98.8%,PaO2 471.0mmHg とSpO2との乖離を認めた。血中メトヘモグロビン(MetHb)値は11.2%と高値であり,DDSの内服歴があることから,DDS内服に伴うMetHb血症と診断し,それに伴うSpO2とSaO2の乖離と判断した。入院後よりDDS内服を中止し,第5 病日には室内気でSpO2 97%まで改善した。動脈血ガス分析でもSaO2 97.2%でSpO2との乖離も認めず,血中MetHb値も4.0%と低下し,第8病日に退院となった。臨床所見に合致しないSpO2の低下がある際には,SaO2との乖離がある可能性を考慮する必要がある。また,DDSの副作用として薬剤性MetHb血症が起こり得ることを認識する必要がある。

  • 長田 俊彦, 廣田 哲也
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年 24 巻 6 号 p. 796-800
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,男性。併存症は慢性腎不全(維持透析),洞不全症候群(DDD型ペースメーカー留置)。コハク酸シベンゾリン(以下CZ)を約1カ月間内服後に倦怠感と不穏が出現した。来院時,ペーシング不全を伴う高度徐脈と低血糖,高カリウム血症を認めた。高カリウム血症を是正後もペーシング不全と低血糖が遷延したため,CZ中毒と判断して第3,4病日に血液濾過透析(以下HDF)を施行し,以降,ペーシング閾値は低下して低血糖も改善した。初診時の血中CZ濃度は1,294ng/mLと高かったが,各HDF前後で血中CZ濃度は低下した。CZは血液透析による除去効率が低い薬剤とされるが,本症例と同様にHDFが薬物の除去や中毒症状の改善に寄与した報告が散見される。本症例のようにペーシング不全により高度の循環障害を伴うCZ中毒では各臓器での薬物クリアランスの低下も予想されるため,HDFが奏効する可能性があると考えられる。

  • 栁内 愛, 小川 健一朗, 萩原 康友, 風間 信吾, 後藤 縁, 北川 喜己
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年 24 巻 6 号 p. 801-806
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    血栓弁によるstuck valveは人工弁置換後の致死的な合併症であり,緊急手術を要することも多い。症例は大動脈弁置換術後(機械弁)の78歳,男性。突然の胸痛・呼吸困難にて搬送された。来院時血圧90/40mmHg,脈拍112回/分とショック徴候を認め,聴診で収縮期駆出性雑音を聴取し機械弁開閉音が消失していた。胸部単純X線写真にて肺うっ血像を認め,経胸壁心エコー検査で大動脈弁最大血流速度4.23m/秒と上昇しており,機械弁の機能不全に起因した急性心不全を疑った。冠動脈造影検査では冠動脈に異常はなかった。弁透視で機械弁の1葉の可動性が制限され閉鎖位でほぼ完全に固定しており,不十分な抗凝固療法(PTINR:1.1)に起因した血栓弁によるstuck valveと診断した。手術のリスクを鑑みてウロキナーゼによる血栓溶解療法を行い,第7病日の弁透視では機械弁のstuckは解除されていた。 左心系機械弁の血栓弁による症状が出現した場合,緊急手術または血栓溶解療法を症例ごとに選択する必要がある。本症例ではウロキナーゼによる血栓溶解療法が奏効し緊急手術を回避できた。血栓弁に対して,血栓溶解療法も選択肢となり得ると考えた。

  • 白﨑 加純, 渡辺 悠, 一二三 亨, 大谷 典生
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年 24 巻 6 号 p. 807-811
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    非定型縊頸後の軟部組織腫脹増悪による上気道閉塞で緊急気管挿管となった1 例を経験したため報告する。精神疾患の既往のない77歳,男性。縊頸を図り不完全縊頸の状態で長時間吊られている状況を発見救出され当院搬送となった。来院時会話可能であったが,診察中に上気道の腫脹が増悪し呼吸状態悪化のため気管挿管を行った。第16病日に抜管を試みたが,喘鳴出現のため再挿管となり同日気管切開術を施行した。精査にて両側声帯麻痺を認め,嚥下機能障害も合併していたため早期の気管切開チューブの抜去は困難と判断し,第73病日に気管切開チューブを挿入したまま精神科病院へ転院となった。長時間の気道周囲の軟部組織圧迫が危惧される患者においては,圧迫解除後に再灌流障害に伴う上気道閉塞をきたす恐れがあるため,緊急気道確保を行えるよう準備が必要である。軟部組織の腫脹による神経圧迫に起因する両側声帯麻痺を合併することがあり,抜管後に上気道狭窄症状を認めた際には両側声帯麻痺をきたしている可能性を念頭に置く必要がある。

  • 芳竹 宏幸, 山口 智之, 高見 友也, 畑野 光太郎, 片岡 直己, 牧本 伸一郎
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年 24 巻 6 号 p. 812-816
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    膀胱破裂は術前診断に至ることは比較的困難であり,試験開腹を行った際に診断されることが多い。膀胱破裂により腹腔内に尿が漏出すると,血中BUN,Cr濃度が上昇するpseudo renal failureを認めることがある。今回われわれは,術前診断に至った1例を含む膀胱破裂を3例経験したので報告する。症例1:76歳,男性。突然の下腹部痛を主訴に救急搬送された。膀胱造影で腹腔内への造影剤漏出がみられ,膀胱破裂の診断で開腹手術となった。 症例2:66歳,女性。下腹部痛を主訴に来院され,汎発性腹膜炎の診断で試験開腹術となり,術中に膀胱破裂の診断に至った。症例3:88歳,女性。数日前からの腹痛が突然増悪したため受診し,CT検査で腹腔内遊離ガスを認め,消化管穿孔疑いで試験開腹術を施行し,術中に膀胱破裂の診断に至った。いずれの症例でもBUN,Crの上昇を認め,汎発性腹膜炎の症例でBUN,Crの上昇を認めた際にはpseudo renal failureを考慮し,膀胱破裂の検索を行う必要があると考える。

  • 勝木 航志, 大幸 英喜, 冨永 桂, 海﨑 智恵, 中尾 裕貴, 岡田 和弘, 水冨 一秋
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年 24 巻 6 号 p. 817-822
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    含糖酸化鉄(以下SFO)投与の副作用として,線維芽細胞増殖因子23(以下 FGF23)関連低リン血症をきたすことが知られている。症例は91歳の男性で,膵頭部癌による閉塞性黄疸,急性胆管炎および十二指腸潰瘍による出血性貧血で入院した。貧血に対して,輸血およびSFO投与を開始し,貧血は緩やかに改善した。SFO投与開始29日目の定期の血液検査で血清リン濃度0.5mg/dLと著明な低リン血症を認め,血清FGF23濃度は1,630pg/mLと高値であった。SFOによる低リン血症を考え投与を中止し,段階的にリン補充ならびに活性型ビタミン製剤の投与を行ったところ,SFO投与中止から30日目で低リン血症は正常化した。貧血に対する急性期治療として輸血とともにSFOを投与する機会が多いが,漫然とした長期投与は避け,投与時には無症候であっても定期的な血清リン濃度の測定が望ましい。また骨軟化症様症状や低リン血症と遭遇した場合には本疾患も念頭に置く必要がある。

  • 塩岡 天平, 馬越 健介, 二宮 鴻介, 竹内 龍之介, 中城 晴喜, 山本 陽介, 三宅 悠香, 佐藤 裕一, 芝 陽介, 田中 光一
    原稿種別: 症例・事例報告
    2021 年 24 巻 6 号 p. 823-827
    発行日: 2021/12/28
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    症例は80歳代,男性。自宅で転倒し,坐骨仙骨の不全骨折と腰椎圧迫骨折のため,近医に入院した。受傷6時間程度経過後より,徐々に呼吸不全と意識障害が進行し,頭部MRI画像で脂肪塞栓症が疑われた。当院に転院搬送となり,非侵襲的陽圧換気療法による呼吸管理を開始した。第4病日には意識状態は改善し,呼吸も安定したため非侵襲的陽圧換気療法を離脱した。第24病日にリハビリテーション目的に転院となった。本例のように高齢者の比較的軽微な骨折でも,脂肪塞栓症を発症することがあり,致死的になり得るため,日常診療において留意する必要がある。また,脂肪塞栓症は,本例のように受傷早期発症など比較的まれな発症様式や非典型的な臨床徴候のため,診断に苦慮する症例も散見される。頭部MRIは,迅速かつ客観的な診断の一助となり,今後さらなる研究が望まれる。

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編集後記
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