抄録
本研究では,道徳科評価の研究開発に携わり,かつそれを実践した教師の振り返りを通して,道徳科の指導と評価に係る課題を考察することを目的としている.手順は以下の通りである.
第1に,道徳科評価について基本的な枠組みを確認するとともに,その上で先行研究からの到達点と課題を明らかにして各学校が何に向き合わなければならなかったかを整理した.第2に,A小学校の道徳科評価研究グループにおけるこれまでの研究経緯と調査方法の概要を記した.第3に,実践に対する聴き取り調査から,調査対象者の気づきや思考を支える典型的な言説を抽出してその特徴や背景を明らかにした.第4に,道徳科における指導と評価に係る実践的課題の一側面を整理し,これからの改善に向けての配慮事項や手掛かりを得た.中でも,教科書と評価の導入によって授業における認知的な志向が前景化するとともに,一方でこれまで道徳授業が有していた機能の一部が後退することが懸念される.