抄録
美術の知識や経験が豊富な学習者と初心者は,鑑賞時に異なる認知的な処理が行われ,作品の種類によっても差が見られる.特に抽象画の鑑賞は,具象画とは異なる認知的反応が見られることが予想される.本研究では新造形主義の抽象画を題材とし,美術教育を専門的に受けている学生(専門的学習者),美術教育を専門的に受けていない学生(非専門的学習者)の鑑賞時の視線の分析と比較を行った.その結果,専門的学習者の総鑑賞時間は,非専門的学習者と比べ長い時間鑑賞することが明らかになった.非専門的学習者は,専門的学習者と比べ,特徴のあるカラフルな四角形,白い四角形の部分への視線停留回数が多く,これらへの興味や関心が高いことが明らかになった.一方,作品の特徴的な部分における専門的学習者と非専門的学習者の 1 回当たりの視線停留時間に差は見られなかった.これらの部分からは情報を得る必要性は低いことが考えられる.