日本食品工学会誌
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特集:原著論文
ジメチルホルムアミドを用いた乳化噴霧乾燥粉末中の含油量の迅速測定法
四日 洋和足立 早映安達 修二吉井 英文
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2014 年 15 巻 3 号 p. 131-139

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抄録

近年,噴霧乾燥法による魚油の粉末化が盛んに検討されている[10-18].作製した粉末の特性の評価において,粉末の含油量とその油分の脂肪酸組成および過酸化物価(POV)などが重要である.しかし,これらの分析には溶媒抽出法による油分の抽出が必須であるため,多くの時間と労力を要することが検討の妨げとなっている.そこで本研究では,含油量,脂肪酸組成,POVの迅速な分析を目的として,N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を用いた新たな分析法(DMF法)の開発について検討した.
PUPA含有油として,亜麻仁油および魚油を用いた.乳化剤(カゼインNa(SC))と賦形剤(マルトデキストリン(MD))の混合水溶液に,亜麻仁油または魚油を加え,ホモジナイザーで攪拌し,エマルションを作製した.これを微細エマルションにする場合は,さらに,高圧乳化機を用いて100 MPaで2回の処理を行った.ついで,乳化液を噴霧乾燥機を用いて乾燥し,各種の噴霧乾燥粉末を作製した.
作製した噴霧乾燥粉末の含油量は,DMF法で測定するとともに,粉末油脂の分析に広く用いられているRöse-Gottlieb法[19]によりその妥当性を検証した.DMF法による手順は以下の通りである.DMF 1 mLに粉末300 mgを加え,15 min超音波で処理して粉末を完全に溶解し,ヘキサン1 mLを添加してボルテックミキサで攪拌した.ついで,3000 rpmで10 min遠心分離を行い,ヘキサン層1 μLを薄層クロマトグラフィ検出装置で分析した.一方,Röse-Gottlieb法による手順は,ヘキサン/ジエチルエーテル/エタノールによる抽出操作を3回行い,重量法により含油量を決定した.また,粉末中の油分の脂肪酸組成およびPOVは,DMFに粉末を溶解したのち,脂肪酸メチル化キットを用いたエステル化法および酢酸-クロロホルム法[31]による電位差滴定によりそれぞれ分析した.
DMF法により得られた亜麻仁油および魚油粉末の含油率は,それぞれ噴霧溶液中の油添加量に相当する30 wt%および40 wt%であった.一方,Röse-Gottlieb法による亜麻仁油粉末の含油率はDMF法によるそれとよく一致したが,魚油粉末では,マイクロエマルションの場合は19.8 wt%,ナノエマルションの場合は3.9 w%となり,DMF法による結果に比べて著しく低かった.Röse-Gottlieb法では,SCなどのタンパク質を含有する粉末の分析において,液-液抽出時に油層と水層の間に中間層が形成され,界面の判別が困難になることが報告されているが[32],DMF法においてはSC存在下でも中間層の形成がなく,簡単に分析が行えた.
脂肪酸組成は,GC-MSクロマトグラムを比較したところ,亜麻仁油および魚油粉末のいずれも,DMF法およびRöse-Gottlieb法で分析した結果にほとんど違いはみられなかった.このように,DMF法を用いることにより,油脂の抽出工程を経ずに迅速に分析ができることが示された.
Röse-Gottlieb法によるPOVの分析では,粉末から抽出した油分のみを用いるが,DMF法では油分に加えて,粉末を溶解する溶媒であるDMFと粉末化の基剤であるMDとSCが含まれる.そこで,POV分析値に及ぼすこれらの影響について検討したところ,DMF,SC,MDのいずれもわずかではあるが分析値が増大した.粉末化基剤によるPOVの増加傾向とそれぞれの粉末を構成する成分の組成比に基づいて,POVの増加量を推算したところ,亜麻仁油粉末では3.66 meq/kg-oil,魚油粉末では3.40 meq/kg-oilであった.この補正により,DMF法で得られた亜麻仁油粉末のPOVは,粉末中の油滴径に係わりなく,Röse-Gottlieb法による結果とよく一致したが,魚油粉末では一致しなかった.魚油粉末で結果が異なった要因として,Röse-Gottlieb法による油分の抽出効率が極めて低く,正確な分析値が得られなかったことが考えられる.
噴霧乾燥粉末の含油率,脂肪酸組成,POVの迅速な分析を目的として,粉末をDMFに溶解して分析する新たな方法を開発した.亜麻仁油および魚油粉末の含油率は,油滴径によらず,正確に分析できることが示された.また,粉末中の油分の脂肪酸組成を,抽出工程を経ずに簡単な操作で決定できた.粉末中の油分のPOVは,DMFおよび粉末化基剤の影響によりわずかな誤差が生じたが,これらの成分の影響を補正することにより妥当なPOVの値が得られることが示された.

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© 2014 一般社団法人 日本食品工学会
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