日本食品工学会誌
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原著論文
Penicillium pinophilumに対する脂肪酸塩の抗カビ効果
惠良 真理子境 志穂田中 彩川原 貴佳完山 陽秀森田 洋
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2015 年 16 巻 2 号 p. 99-108

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抄録

カビは土壌や空気中,生物体表面など様々な場所に生育しており,食品や住環境を汚染することから,その制御が問題となっている.Penicillium 属菌は,自然界に広く生息し,野菜や果実などにおいて繁殖し,劣化や腐敗を引き起こす.さらに本菌は胞子の吸引によるアレルギー性疾患などの様々な健康被害を引き起こす.カビ対策としては,オルトフェニルフェノールやチアベンダゾール,イマザリルなどの防かび剤による手法が挙げられるが,安全性や持続性の低さが問題となっている.このような背景から,抗カビ効果,安全性,持続性の高い防かび剤の創出が求められている.
本研究では,界面活性剤の一種で石けんの主成分である脂肪酸塩に着目した.脂肪酸塩は鎖状炭化水素のカルボン酸塩であり,Escrichia coliStaphylococcus aureusなどの細菌に対して抗菌効果が報告されている.しかし,カビに対する抗カビ効果の知見は少ないのが現状である.そこで,本研究ではJISかび抵抗性試験法で用いられるPenicliium pinohphilum NBRC 6345株およびPenicillium digitatum NBRC 9651株に対する脂肪酸塩の抗カビ効果について評価した.
炭素数が異なる9種類の脂肪酸塩の抗カビ試験の結果,Penicillium 属菌に対してカプリン酸カリウム;C10Kが最も高い抗カビ効果を発揮することが明らかとなった.C10Kは10分の接触で4オーダーの抗カビ効果(カビ胞子を99.99%減少)を発揮した(Fig. 1).最小発育阻止濃度(MIC)測定結果では,P. pinophilum に対してC10Kが175 mMで発育を抑制することが明らかとなった(Table 1).これらの結果から,P. pinophilum に対してC10Kが最も高い抗カビ効果を発揮することが明らかとなったため,本菌株に対してC10Kとその他脂肪酸塩の共存試験を検討した.その結果,C10Kの抗カビ効果に対して短鎖・中鎖脂肪酸塩は影響を与えず,長鎖脂肪酸塩は阻害作用を示すことが明らかとなった(Fig. 5A-H).
P. pinophilumに対してC10Kが最も高い抗カビ効果を発揮することが明らかとなったため,柑橘類におけるC10Kの抗カビ効果を検討した.その結果,Controlと比較してC10Kは柑橘類におけるP. pinophilum の発育を抑制した(Fig. 6).本研究より,C10Kの防かび剤としての有用性が示唆された.

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© 2015 一般社団法人 日本食品工学会
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