日本食品工学会誌
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原著論文
大豆抽出物添加培地で培養した大腸菌の熱死滅挙動に関する速度論的研究
石川 大太郎小谷 容光藤井 智幸藤井 恵子
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2016 年 17 巻 1 号 p. 1-7

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抄録

食の安全安心の観点から,食中毒の原因となる微生物の殺菌は重要である.しかし,過度の殺菌処理が施されると,品質が劣化するためプロセスの最適化が必要である.これまで微生物を標準的な培地で増殖させた後,被験食品に添加することで殺菌条件の検討が行われてきたが,食品中で増殖した微生物の死滅挙動については十分には解明されていない.そこで,本研究では,大豆系食品に対する殺菌プロセスの最適化のため,豆乳中で培養した大腸菌についてその熱死滅挙動の解析を行った.指標微生物として大腸菌(K-12株)を,培養用試料として,LB培地と豆乳(水分:89.6%脂質:2.7%タンパク質:5.0%),豆乳を遠心(70000 rpm,25℃,3時間)により分画して得られた上相(top part),中間相(middle part)と下相(bottom part)にLB培地粉末を溶解させた培地を準備した.各培地に大腸菌を植菌し,37℃,24時間振盪培養した.培養液を0.85%NaCl溶液に懸濁し,60℃で加熱処理を施した.高温条件下の大腸菌の死滅曲線は大豆抽出物添加培地培養(Test sample),LB培地培養(control sample)とも一次反応式で記述され,大腸菌は,大豆抽出添加培地で培養することにより耐熱性が増すことが示された.さらに,中間相の死滅速度は上相と下相より遅いことが確かめられた.中間相はリン脂質が豊富に含まれていることから,大腸菌のリン脂質含量を定量したところ,豆乳中で培養した大腸菌のリン脂質含量は,コントロールに比べ増加していた.リン酸緩衝液中で死滅させた場合においても,中間相の死滅が抑制される結果となった.したがって,大豆抽出物中のリン脂質の効果により,大腸菌の熱の耐性が向上する可能性が示唆された.また細胞膜に作用すると考えられる高圧試験を実施した結果,150および200 MPaの高圧処理においても,中間相の死滅速度は明らかにコントロールより遅くなった.以上の結果から,大腸菌の細胞膜が,大豆抽出物中のリン脂質によって強化される可能性が示唆された.すなわち,大豆系食品では,微生物の熱耐性が向上することを考慮して殺菌プロセスを構築することが重要であると考えられた.

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© 2016 一般社団法人 日本食品工学会
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