日本食品工学会誌
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原著論文
亜臨界含水エタノール中でのN-アセチル-D-グルコサミンの消失速度
神原 知佐子小林 敬安達 修二
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2016 年 17 巻 4 号 p. 99-104

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抄録

常圧での沸点である100℃から臨界温度の374℃の温度域で加圧することにより液体状態を保った水を亜臨界水という.常温常圧の水に比べて亜臨界水には,イオン積が大きく,比誘電率が低いという2つの特徴がある.前者の特徴から,亜臨界水は水素イオンおよび水酸化物イオンの濃度が高く,酸またはアルカリ触媒として作用し,加水分解[1-5]や熱分解[5,6]だけでなく,縮合[7,8]や異性化[9]を触媒する.また,後者の性質から,亜臨界水は疎水性物質を溶解するので,各種の生物資源からの有用物質を抽出できる[10-14].亜臨界水を抽出などの食品加工に応用するには,それらの過程で生起する諸現象に関する基礎的な知見が必要である.そのような観点から,農水産未利用資源の有効利用に関する応用的な研究に加えて,モデル系ではあるが,亜臨界水中での糖や脂質の(加水)分解や異性化などに関する速度論的な検討を行っている.

また,亜臨界状態に保った含水アルコールは,水だけのときには異なる抽出効率や反応特性を示す[17-20].そこで本論文では,甲殻類の殻などに含まれるN-アセチル-d-グルコサミン(GlcNAc)の亜臨界含水エタノール中での反応について検討した.処理温度は190℃で,エタノール濃度は0~80%(w/w)とした.GlcNAcの消失過程は1次反応速度式で整理でき,速度定数は含水エタノール中の水の容量モル濃度に比例した.これはGlcNAcの消失に水が重要な働きをすることを示唆する.GlcNAcの消失過程では反応液のpHが低下し,その後一定の値となった.これはGlcNAcの加水分解により生じた酢酸とグルコサミンが緩衝液系を形成することに起因すると考えられる.また,反応液の紫外吸収スペクトルはカルボン酸とフルフラールの生成を示唆した.さらに,エタノールの含有率が高くなると,フルフラールの生成や反応液の着色が抑えられた.

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© 2016 一般社団法人 日本食品工学会
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