食品の物性と水に関するいくつかのテーマに関して概説した.液状食品の凍結乾燥速度は,試料温度が凍結物中のCAS(濃厚非晶質溶液)部のガラス転移温度であるTg'以下の温度の場合には,修正URIF(昇華面均一後退)モデルで記述できる.凍結乾燥中に試料温度がTg'以上になると,CASがラバー状態になる.ラバー状態のCASはコラプス(collapse)を起こして試料中の水蒸気の通過経路をふさぎ,試料からの乾燥がしにくくなる.水分収着等温線は,食品中の水と固体成分の相互作用に関する情報を与える.水分収着等温線を溶液熱力学を用いて解析することにより,水と固体両方の熱力学的パラメータが求められる.積算ギブス自由エネルギー変化ΔGsは熱力学的観点から,固体と水との相互作用の程度評価するのに適するパラメータである.水分収着等温線の熱力学的解析によって得られるパラメータと水分収着に伴うガラス転移温度(Tg)の低下には関係がみられる.水分収着等温線から得られる熱力学的パラメータΔGasはTgの低下の程度 ΔTg (≡Tg − Tg0; Tg0 は乾燥試料のTg)と高い相関を示した.言い換えれば,水のガラス状食品に対する可塑剤としての効果がΔGasにより評価しうることになる.誘電緩和法から求められる緩和時間τも,ガラス状食品に対する水の可塑化効果を評価するのに有用と考えられる.パーコレーションモデルは,ゾル-ゲル転移点近傍における力学物性の挙動を高分子の分散構造を考慮しつつ理解するうえで有用である.超音波パルスドプラー法から求められるヒトの咽頭部最大流速Vmaxは,嚥下困難者にとっての誤嚥のリスクのよい指標と考えられる.ゲル化剤のVmaxは,濃度の増加に伴って減少したが,その減少はゾル-ゲル転移点以上の濃度領域でゆるやかであった.