本総説は,噴霧乾燥法を粉末食品製造に応用する場合に遭遇する諸問題の,最近10年間の主たる研究成果を述べたものである.粉末化成分(芯物質)が非水溶性の場合は,これを乳化する必要があるが,ここでは噴霧乾燥溶液がO/Wエマルションの場合に話題を絞る.溶液の微粒化は噴霧乾燥の最初の操作である.微粒化で重要なのは,生成液滴径の均一性と高剪断応力下におけるエマルションの破壊である.これらは,粒子の溶解性,表面オイル量,芯物質の乾燥粒子内の存在位置などの製品品質と密接に関係する.エマルションの破壊限界がCapillary数で表されることが明らかになった.液滴の乾燥解析は,収縮系における水分の拡散方程式とエネルギー方程式を連立して数値解析する方法が広く行われているが,液滴表面での水分蒸発速度を活性化エネルギーで表した反応工学アプローチ(REA法)が提案され,懸垂液滴の乾燥解析に応用されている.乾燥粒子内の芯物質の保存安定性(酸化・徐放速度)は,周囲空気の湿度の影響を受けるが,これは粒子を構成するマトリックスのガラス転移温度Tgと周囲温度Tとの差T - Tgで相関される.Tgは周囲空気の湿度によって著しく変化する.魚油を芯物質とする噴霧乾燥では,表面オイルの酸化防止法が重要である.魚油エマルションの噴霧直後の液滴表面にデンプン粒子を吹き付けてコーティングする手法で,粒子表面をデンプン粒子で被覆した乾燥粉末を作製した.乾燥粒子のSEM写真により,乾燥粒子表面が澱粉粒子によって均一にコーティングされており,酸化防止効果が確認された.また,デンプン粒子による被覆はスクロース粉末の収率改善に著しく寄与した.乾燥粒子の外部および内部の構造解析には,SEMやCLSM(confocal laser scanning microscopy)やこれとラマン分光を組み合わせた測定法が用いられている.CLSMによる中実および中空乾燥粒子の内部構造,芯物質の粒子マトリックス内での存在状態が明らかになった.