2025 年 26 巻 3 号 p. 105-112
食生活の多様化や欧米化を背景に,日本の米の消費量は減少傾向が続いている.この状況を改善するため,米の新たな素材開発が期待されている.我々は以前,浸漬した米を炊飯前に磨砕し,ペースト状としたものを炊飯することで,新たなテクスチャー特性をもつ米素材が得られることを見出した.本研究では,米粉に水を加えてスラリー状とし,これを炊飯しても同様な素材が得られるのではないかと仮定し,炊飯前の磨砕方法の違いが炊飯後の米のテクスチャーに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.米を水中で磨砕して調製した米ペースト,および乾式または湿式で粉砕した米粉と水を混ぜて調製した米粉スラリーを炊飯し,得られた米素材のテクスチャー特性および官能特性を比較した.その結果,炊飯前に磨砕した米ペーストは米粉に比べて澱粉損傷度が低く,平均粒子径が小さかった.炊飯処理を行ったところ,米ペースト,米粉スラリーのいずれもゲル状の米素材が得られた.米素材のテクスチャー特性は,米ペースト素材が米粉素材に比べて有意にやわらかく,付着性が低かった.動的粘弾性においても,米ペースト素材は米粉素材に比べて粘性が低い傾向にあった.官能評価の結果,米ペースト素材と湿式粉砕による米粉素材は外観が良く,なめらかであると評価された.一方,乾式粉砕による米粉素材はざらつきがあるものの,べたつきが少ないと評価された.これらの結果,米粉に水を加えスラリー状としたものを炊飯することでも,米ペーストを炊飯した場合と同様のゲル状素材を得られることがわかり,米粉の用途を拡げる知見を得ることができた.今後,これらの素材の特性を利用した介護食品やグルテンフリー食品への応用が期待される.