2026 年 27 巻 1 号 p. 1-14
液体の粘度(剪断粘度)と流動特性の概念,粘弾性の概念,その静的,動的な測定原理に関して概説した.静的な測定としては,クリープ試験,応力緩和,フォークト模型,マックスウェル模型,緩和時間などについて説明した.動的粘弾性に関しては,貯蔵弾性率,損失弾性率,損失正接,複素粘性率,動的粘性率なのパラメータの物理的意味について説明し,食品ハイドロコロイドの分類法に関して述べた.また,ゾル-ゲル転移に関するWinter-Chambonの理論,剪断粘度と複素粘性率を関係づけるCox-Merzの経験則について説明した.最後に食品工学へのレオロジーの応用の1例として,食品ハイドロコロイドの嚥下特性とレオロジーに関する研究の一部を紹介した.
An overview was provided of the concepts of liquid viscosity (shear viscosity) and flow properties, as well as the concept of viscoelasticity and its static and dynamic measurement principles. For static measurements, creep tests, stress relaxation, the Voigt model, the Maxwell model, the relaxation time, and related topics were explained. Regarding dynamic viscoelasticity, the physical meanings of parameters such as storage modulus, loss modulus, loss tangent, complex viscosity, and dynamic viscosity were described. A classification method for food hydrocolloids was also discussed. In addition, the theory of sol-gel transition proposed by Winter and Chambon, and the Cox-Merz empirical rule that relates shear viscosity and complex viscosity were explained. Finally, part of a study on the relationship between the swallowing characteristics and rheological properties of food hydrocolloids was introduced.
かつて,日本食品工学会誌において,「食品の物性と水」というタイトルの解説論文が15回連載(熊谷が企画,2008年第9巻2号から)された.その第1回で,熊谷らは,食品の分野(食品工学,食品科学,食品産業)において用いられる「物性」という語句は,試料の形状やサイズによらない物質特有の性質を反映する本来の(真の)物性(physical properties)の意味だけでなく,テクスチャー,保形性など材料特有の物理特性,という3つの意味で使われていると述べた[1].本来の物性(真の物性)を用いて工学的モデルに基づくプロセスの計算や,物理的理論に基づく内部構造の測定・計測が行われるが,食品の品質評価で用いられるのは,試料の形状やサイズに依存するテクスチャーや試料の物理的な特性値であることが多い.つまり,加工操作と品質評価の現場で求められる「物性」がしばしば異なることが,食品の工学的取り扱いを難しくしている要因のひとつとなっている.
レオロジー(rheology)は,「物質が外力に対してどのように変形・流動するか(時間経過を含めて)を研究する学問」である.固体,液体とは何か,硬い,柔らかいとは何かまで,変形および流動に関して,粘性率や弾性率などの力学物性(上述の“真の物性”である)の挙動を物質内部の分子の分散構造との関係まで科学的に深く掘り下げる[2, 3].レオロジーが扱うのは広範囲に及ぶが,食品科学・工学に最も関わり合いがあるのは,液体の流動特性,すなわち剪断粘度を取り扱う領域と,小変形下における粘弾性を扱う線形レオロジーの2領域であろう.レオロジーから得られる物性値からは,物質内部の分子の分散構造,絡み合い構造が推測できる.また,液体の流動特性からは,食品の製造プロセス内,ヒトの咽頭部における流速分布の計算も可能である.[4, 5]
一方,力学的な特性ではあるが,ヒトが口の中で感じる食べ物の物理的な質感や構造がテクスチャー(texture)である.食品,とくに固体食品の場合,おいしさには化学的な味よりもテクスチャーの寄与のほうが大きいといわれる.液状飲料についても,“喉ごし感”などはおいしさを感じるうえで重要である.近年の食生活の多様化に伴い,“コシ(麺類など)”,“モチモチ感”など,様々な,そして新たなテクスチャーをもつ食品の開発が行われている.例えば,高齢者が咀嚼,嚥下しやすい食品が求められているが,高齢者用食品は,適度な硬さで,“べたつかず”,“まとまりやすい(食塊形成しやすい)”というテクスチャーが求められる.こうした背景から,いわゆる“テクスチャーデザイン”の重要性がかつてないほど高まっている[6].しかし,テクスチャーとは大変形下での力学的な特性であり,試料の形状や大きさの影響を強く受ける.そのため,レオロジー的な物性である粘弾性と食感としての硬さとは必ずしも対応しない.つまり,テクスチャーは,真の意味での物性(physical properties)ではなく,物理的な解釈が難しい.こうしたことから,テクスチャーは,その実用的な重要性にも関わらず,科学的な裏付けが十分になされていない.
上述の日本食品工学会誌の連載解説論文「食品の物性と水」の第5回「Vレオロジーと食品工学---嚥下障害者用介護食の物性を中心として」では,レオロジーと食品工学の関係について論じた[7].この解説論文では,通常のレオロジーの教科書で行われる理学的な説明は避け,「食品化学プロセス工学」的な食品工学の研究者向けに,プロセスの最適化を図るモデルに含まれる物性値である粘度を中心に,レオロジーと食品工学の関係(嚥下との関連が中心)について論じた.しかし,テクスチャーに関しては,試料形状などの影響を受け,物理的解釈が難しい意味があるため記載は避け,テクスチャー測定(TPA試験)で求められるパラメータは,物理的意味が明確なレオロジーにおける物性値に置き換えられていくのが望ましいという立場をとった.
このように,以前のレオロジーの解説論文[7]では,テクスチャーについてほとんど記述しなかった.しかし,その後,食品分野におけるニーズから,テクスチャーに関して様々な研究が行われ,有用で興味深い多くの知見が得られている.例えば,咀嚼性や飲みやすさを生体計測で評価する試みがある[8, 9].ただ,そうしたテクスチャーに関しての科学(レオロジーを含める)的な裏付けは十分ではないように見受けられる.レオロジー的なパラメータは,真の物性であり内部の分子の分散構造を推定しやすい.実際に材料の加工特性を他の物理測定の結果を踏まえ,レオロジー的に考察する試みも行われている.
以上を踏まえ,この度,「食品のレオロジーとテクスチャー」というタイトルで,3回連載の解説論文にまとめることにした.以前のレオロジーに関する解説論文では,物理的解釈が難しいがゆえに避けたテクスチャー測定に関しても筆者らの研究結果も踏まえて説明し,科学的方法であるレオロジーとの接点についても議論する.3回の内容としては以下を予定している.
初回である今回は,レオロジーの基礎に関して概説する.最初の液体の粘度(剪断粘度)と流動特性の概念に関して述べる.次いで,粘弾性の概念,その静的,動的な測定原理に関して述べる.静的な測定としては,クリープ試験,応力緩和,レオロジーという分野の本質上,重要な概念である緩和時間などについて概説する.動的粘弾性に関しては,パラメータの物理的意味について説明し,食品ハイドロコロイドの分類法に関して述べる.また,ゾル-ゲル転移に関するWinter-Chambonの理論,剪断粘度と複素粘性率を関係づけるCox-Merzの経験則について説明する.最後に食品工学へのレオロジーの応用の1例として,筆者らが行ってきた食品ハイドロコロイドの嚥下特性とレオロジーに関する研究の一部を紹介する.
以前のレオロジーの解説論文の内容と一部重複するところもあるが,今回は静的および動的粘弾性の理論面をより深く掘り下げて説明し,前報以降に学会誌に掲載されたデータも多く付け加えた.
本節では,液体の粘度に関して解説する.
2.1 粘度の概念液体の流動性(トロミの程度)の指標となる物性は粘度である.Fig. 1に示すように,断面積S [m2]の質量が無視できる薄い2枚の水平の平板間に厚みがL [m]の液体が満たされているとする.上の板に対して,右方向にF [N]の力を加えて速度V [m/s]で動かし定常状態に到達すると,平板間の流体内で図に示すような直線的な速度分布ができる.この時,単位板面積当たりの力F/Sをずり応力(shear stress),V/Lをずり速度(shear rate)という.平板の移動距離を d [m]とするとV = $\dot{d}$ ($\dot{d}$は d の時間による微分)なので,d/L ≡ γ,F/S ≡ pと定義すると,ずり速度は$\dot{\gamma }$($\dot{\gamma }$はγの時間による微分)となり,粘度(viscosity, 流動粘度もしくはshear viscosity,ずり粘度ともいう)η[Pa・s] は(1)式 のように定義される.
| $p = \eta \dot{\gamma }$ | (1) |
このようにひずみγと応力pを用いて定義することにより,粘度ηは,大きさや形状に依存せず,その物質の性質を反映する物理量,つまり“真の物性”[1, 11]となる.(1)式から,同じ力を加えた際に流動しにくい流体(液体あるいは気体)程,粘度は大となる.

The definition of viscosity (steady shear viscosity).
図において,平板の端点P点上の流体の移動速度が$\dot{d}$(=V)に等しいことに注意したい.つまり,流体中の点が一定速度で移動することが一定流速([m/s])で“流れる”ということで,後述の物体の粘性につながる考え方である.
2.2 様々な流動特性[7, 12]Fig. 2に示すように,ずり速度$\dot{\gamma }$に対してずり応力pをプロットしたのが流動特性曲線(flow curveあるいはflow behavior curve)である.ずり速度$\dot{\gamma }$に関係なくηが一定の流体をニュートン流体(Newtonian fluid),$\dot{\gamma }$によってηが変化する流体を非ニュートン流体(non-Newtonian fluid)という.ニュートン流体では,流動特性曲線は原点を通る.ハチミツや水飴,グリセリンの水溶液などの比較的低分子の希薄な水溶液は,ニュートン流動を示す.一方,濃厚な溶液やコロイド溶液などの食品は非ニュートン流体であり,流動特性曲線は原点を通る直線にはならない.非ニュートン流体にはFig. 2に示すようないろいろなタイプがある.ニュートン流体は,ずり応力が0以上で流動するが,流体の中には小さいずり応力では流動せず,特定のずり応力p0以上で流動を開始するものがある.そのような流動を塑性(plastic)流動,ずり応力p0を降伏応力(yield stress)という.塑性流体としては,マヨネーズ,トマトケチャップ,マーガリンなどがある.塑性流動のうち,流動特性曲線が直線のものをビンガム(Bingham)流動という.塑性流体すなわち降伏応力(p0)をもつということは,その物質がp0以下の応力下では固体的な性質を示し,p0以上では流動する(液体である)ことを意味している.Fig. 2に示すように降伏値をもたず,上に凸の流動性を示す流体を擬塑性(pseudo-plastic)流体といい,濃縮ジュース,果実のピューレ,澱粉糊などが一例である.降伏値をもたず,擬塑性と逆にずり応力の増加と共に見かけの粘度が増加する流体をダイラタンシー(dilatancy)流体という.生澱粉の濃厚サスペンションはダイラタンシー流体の典型例であり,水を含む海辺の砂もダイラタンシーである.ダイラタンシーは,高ずり速度下で,粒子の隙間が狭くなって粒子間の水が押し出され,粒子の表面が乾いて硬くなるために起こる.

Flow curves (p vs. $\dot{\gamma }$ plot) of food liquids.
流動特性曲線上の点の座標($\dot{\gamma }$, p)から粘度はη= (p/$\dot{\gamma }$)と計算できる.Fig. 3の上に示すように,η vs.$\dot{\gamma }$プロットから,ニュートン流体においては,ηは$\dot{\gamma }$に関わらず一定であることが確認できる.Fig. 3の下に,流動特性曲線が上に凸の非ニュートン流体である擬塑性流体と擬塑性流体のηvs.$\dot{\gamma }$プロットを示す.ずり速度$\dot{\gamma }$の増加に伴って粘度ηが低下する現象をずり流動化(shear thinning)という.ずり流動化の原因は,Fig. 3の下に示すように,低ずり速度では高分子がもつれ合って流れにくく,高ずり速度では高分子が流れに沿って並び流れに対する抵抗が減ることによる.

Viscosity of Newtonian and non-Newtonian fluids.
Fig. 4に,4種類の市販の増粘剤(トロミ剤)であるCMC(カルボキシメチルセルロース),キサンタンガム,グアーガム,α化澱粉の各溶液に関する粘度測定結果を示す.図には,コーンプレート型とBrookfield型(B型)の2種類の粘度計での測定値を示してある.非ニュートン流体に関して物理的に明確な粘度測定が可能なのはコーンプレート型粘度計だが,B型粘度計でもコーンプレート型と類似した粘度値が得られることが確認できる[12].CMC溶液に関しては,この濃度範囲では粘度ηの値がほぼ一定で,ニュートン流体に近かった.しかし,キサンタンガム,グアーガム,α化澱粉に関しては,ずり流動化(Fig. 3参照)が観測された.ずり流動化の程度は増粘剤によってかなり異なり,キサンタンガム溶液については,ずり速度の1桁上昇に伴って粘度ηが約1桁減少しており,グアーガムおよびα化澱粉に関してはずり速度の2桁上昇に伴って粘度ηが約1桁減少した.このことから,粘度ηの大きさについて言及する場合,ずり速度を規定しなければ意味がないことがうかがわれる.

Shear rate dependences of viscosity measured with the cone-and-plate (open symbols) and Brookfield-type (closed symbols) viscometers.
液体の中には,見かけの粘度が時間依存性をもつものがある.チキソトロピー(thixotropy)とは,振とうや撹拌によって流動性を増し(見かけの粘度が低下),静置によってもとに戻る現象である.これは,ずり速度の増加に伴う構造破壊が静置により復元することによる.チキソトロピーを起こす食品としてはマヨネーズやケチャップなどがある.逆に,振とうや撹拌によって流動性が低下し,静置によってもとに戻る現象をレオペクシー(rheopexy)といい,これはずり速度を加えることにより構造形成が促進することによる.レオペクシーの例としては,食品ではないが,石膏の懸濁液がある.
固体に関して剪断粘度は定義できないが,弾性率と粘性率という物性値は定義できる.レオロジーでは,応力(stress)とひずみ(strain)が比例する線形領域において理論的な取り扱いが可能なため,通常は線形性が成立する微小変形下での測定値を用いた議論が行われる.本項では,線形レオロジーの基礎である粘弾性の概念,静的および動的な粘弾性測定法について説明する.
3.1 静的な測定による粘弾性[2, 3] 3.1.1 弾性と粘性最初に,小変形下で,静的な(応力またはひずみが一定)測定を行う際の弾性および粘性の概念に関して述べる.
弾性(elasticity)とは,物体に外力を与えると変形(ひずみ)を生じるが,外力を取り除くと元に戻る性質である.応力(stress,単位面積あたりにかかる力)とひずみ(strain,変形前の単位長さあたりの変形量)に線形性が成り立つ小変形領域における比例定数が弾性率(the modulus of elasticity)である.弾性率には引っ張りまたは圧縮変形に関するヤング率(Young’s modulus)とずり変形に関するずり弾性率(shear modulus)とがあるが,ここでは,粘性と対比するためにずり弾性率に関してのみ述べる.ただ,応力とひずみの比が弾性率であることは同じである.
Fig. 5に弾性体(弾性のみもつ物体)と粘性体(粘性のみもつ物体)の概要を示す.直方体の物体の面積S[m2]の面に剪断力F [N]をかけ,直方体の端点Pが力方向にd [m]移動,つまり物体が変形したとする.ここで,d/L≡γ(L: 初期厚み)をずりひずみ(shear strain),F/S≡pをずり応力(shear stress)と定義する.

Elastic and Viscous bodies.
(1)弾性体
弾性体(elastic body)に関してずり弾性率(shear modulus)は以下のように定義される.
| $p = G\gamma $ | (2) |
変形量dの代わりにひずみγを考えるのは,同一の力を加えた際のdは初期長さLに比例するためであり,力Fの代わりにずり応力pを考えるのは,同一ひずみの変形をさせるには単位面積あたりの力を一定にする必要があるためである.このようにひずみγと応力pを用いて定義することにより,弾性率Gは“真の物性”(大きさや形状に依存せず,その物質の性質を反映する物理量)[1, 11]となる.ずり弾性率の大きな弾性体ほど同一の応力に対して変形しにくい.ただ,弾性率が大きいことを日常用いる“硬い”と混乱してはならない.ヒトの血管は,高齢化によって弾性が失われ,「硬く」て,脆くなる.筆者らは,物性の説明をする際によくいうが,「硬い」,「柔らかい」という語句は厳密な議論に向かないことがよくある.
弾性は,物体に外力を与えると変形を生じ,外力を取り除くと元に戻る性質なので,Fig. 5中央の中段に示すようにしばしば,バネ(spring)によってモデル化される.また,Fig. 5中央下に示すように,弾性体にt1からt2の間,一定の応力をかけると(後述のように,物体に一定応力をかける測定をクリープという),その間だけ一定のひずみを生じる.このように,応力とひずみに時間遅れが全く無いのが完全弾性体の特徴である.
(2)粘性体
Fig. 5右下に示すように,一定のずり応力p [Pa]をかけた時に,変形量d [m]が時間的に一定の割合で変化する,つまり“流動する”性質を物体が粘性体(viscous body)である.変形量の時間微分$\dot{d}$は平板の移動速度Vに等しいので,V/Lは以下のようにひずみγの時間微分$\dot{\gamma }$(=$\dot{d}$/L)と一致する.このγの時間微分$\dot{\gamma }$は,Fig. 1に示した粘度(剪断粘度)の定義におけるずり速度$\dot{\gamma }$と式の形が同じである.これは,Fig. 1とFig. 5の粘性体いずれにおいても,端点Pがずり応力の方向に一定速度でVで移動しているためで,これが「物体が“流れる”」,「粘性」の意味といえる.ずり応力pとずり速度$\dot{\gamma }$とから粘性率(viscosity)ηは以下のように定義される.
| $p = \eta \dot{\gamma }$ | (3) |
Fig. 1とFig. 5,(1)式と(3)式を比較すると,同一式だが,本項で述べた粘性率はあくまで小変形下で実測される物性値なので,本来,剪断粘度と粘性率が等しい保証はない.実際,ゲル(寒天ゲル,豆腐など)のような半固体に関してはFig. 1で示した剪断粘度は測定できないが,微小変形下での測定によって粘性率は求められる.
粘性体は,一定応力に対して変形しつづける液体のような性質を有するので,レオロジーにおいてはしばしば,Fig. 5右中央に示すような「ダッシュポット」でモデル化される.また,粘性体は,Fig. 5右下に示すように,時間t1からt2の間一定のずり応力を与えると一定速度で流動し,ずりひずみが一定速度で増加する.そして,応力が0に戻った後もひずみが残る.このように,応力とひずみ(変形)との間に「時間遅れ」があるのが粘性体の特徴である.言いかえると,物体に応力を加えた場合に,瞬間的な変形量を説明する物性値が弾性率,変形し続ける部分を説明する物性値を粘性と解釈することができる.
(3)粘弾性の概念と2要素モデル
液体は粘性を有し,固体は弾性を有するのが普通だが,食品の中にはゲルなどの半固体のように粘性と弾性両方の性質を有するものが多くあり,こうした性質を粘弾性(viscoelasticity)という.粘弾性の静的なレオロジー測定法には,一定応力下でのひずみの時間(t)変化を求めるクリープ試験(creep),一定のひずみを与えて応力の時間(t)変化を求める応力緩和(stress relaxation)がある.本項では,クリープおよび応力緩和,緩和時間の概念に関して説明する.
粘弾性体は,弾性体のような瞬間変形と粘性体の“流動性”を併せもった物体である.その力学的な変形の挙動は,しばしばバネとダッシュポットの組み合わせでモデル化される.最も簡単な粘弾性体のモデルが,バネとダッシュポットが並列にながったフォークト(Voigt)模型と,直列につながったマックスウェル(Maxwell)模型という2要素モデルである[2].
Fig. 6に,フォークト模型とそのクリープ試験,マックスウェル模型とその応力緩和を示す.

Static measurement of simple viscoelastic body (Voigt model and Maxwell models).
フォークト模型に対するクリープ(時間 t = 0で,応力p = p0 )に関しては,
| $\text{微分方程式:}p = G\gamma + \eta \dot{\gamma }$ | (4) |
| $\text{を初期条件:}\gamma = 0\quad \text{at}\ t = 0$ | (5) |
のもとで解くと,解は
| $\gamma (t) = (p_{0}/G)\{ 1-\exp \text{ (} - t/\tau _{\text{R}}\text{)}\} $ | (6) |
となる.ここで,
| $\tau _{\text{R}} \equiv \eta /G$ | (7) |
で,τR [s]は緩和時間(relaxation time)とよばれるパラメータである(Fig. 6上).
マックスウェル模型に対する応力緩和(時間 t = 0で,ひずみγ=γ0 )に関しては,
| $\text{微分方程式:}(1/G)\dot{p} + (p/\eta ) = 0$ | (8) |
| $\text{を初期条件:}p = p_{0} = G\gamma _{0}\quad \text{at}\ t = 0$ | (9) |
のもとで解くと,解は
| $p(t) = p_{0}\exp ( - t/\tau _{\text{R}})$ | (10) |
となる.ここで,τRは緩和時間(=η/G)である(Fig. 6).
次に,(7)式,(10)式中の緩和時間τRと物体の変形の関係,“固体(solid)”,“液体(liquid)”の概念について考察してみる.一般に,「温度,圧力などの外的条件の変化によって平衡状態からのずれを生じた系が,時間的遅れをもって新たな,あるいはもとの平衡状態に達すること.あるいは,その過程」を緩和過程(緩和現象)という.(7)式,(10)式中の緩和時間τRは,クリープや応力緩和という緩和過程の特性時間といえる.(6)式,(10)式におけるexp(-t/τR)の部分を考えると,時間t が緩和時間τR経過するとe-1≒0.36なので, 全体(t = 0~∞)の変化の約74%が終結する.また,t が3τR経過するとe-3≒0.05なので,全体の変化の約95%が終結する.つまり,緩和過程は,τR程度の時間で終結するとみなすことができる.フォークト模型とマックスウェル模型で表される粘弾性体における緩和時間τRは(7)式のように,弾性率と粘性率という対象の物体の物性値で決まる.クリープや応力緩和という粘弾性体の緩和現象において,物体の観測時間が緩和時間より短ければ固体,観測時間が緩和時間より十分長ければ液体と考えることができる.
誰でも子供の頃から,固体とは氷や鉄の塊のように流れない(変形しない)もので,液体とは常温の水のように流れる(変形する)物体と教わってきた.ただ,そう考えた場合,ゼラチンゼリーなどは,液体か固体か疑問が残る.低濃度のゼリーなどは,最初は固体のようでも時間が経過すると潰れている.つまり,変形するかしないか,液体か固体かという議論は「観測時間」を考慮に入れないと意味がないのである.物体は,短時間の“観測”では固体的(変形しない)でも長時間観測すると液体的(変形する)な挙動を示すことがある.レオロジーの教科書の導入部にはよく,「神の前では山でも動く」という文言が書かれている.観測時間を考慮しなければ,「硬い」,「柔らかい」の議論が意味をなさないこともありうることに留意されたい.
(4)粘弾性と多要素モデル
実際の物質のクリープ試験や応力緩和試験においては,フォークト模型やマックスウェル模型などの2要素モデルでは,ひずみや応力の経時変化を記述できない.その場合,バネやダッシュポットの数を増やした多要素モデルが用いられる.ここでは,Fig. 7上に示す4要素モデルのクリープについて解説する(方程式は省略)[2].

Creep test using the four-element model.
t = 0でp = p0の応力がかかると,図上の弾性要素(G1)により瞬間的なひずみが生じる.実験的には,このひずみの測定値でp0を除して弾性率G1が求められ,これを瞬間弾性率という.図中央の弾性要素(G2)の影響でクリープ曲線は上に凸になるが,時間が十分経過すると,図下の粘性要素(η2)の影響により点線の直線に漸近する.実験的にはこの直線の傾きでp0を除して粘性率G2が求められる.このように,4要素程度のモデルでも材料の瞬間変形や永久流動などが記述できる.市販のレオメータにはクリープのデータを4要素や6要素モデルで解析するためのソフトが組み込まれている.要素数が増えれば,クリープ曲線はより良好に回帰できるが,こうして求められる粘性率や弾性率はfitting parameterであり,各パラメータと試料中の分子構造と対応させることには問題がある.
3.2 動的粘弾性[2, 3, 7]動的粘弾性測定は,物体に角周波数ωの正弦的な応力を与えたときの,ひずみと位相遅れから粘弾性を求める方法(ひずみを正弦的に与え,応力の応答をみる方法もあるが,理論の概要はほぼ同様)である.ここでは,食品のハイドロコロイドに関係する動的粘弾性測定の理論について説明する.
3.2.1 動的粘弾性測定から得られる様々なパラメータの関係粘弾性体に角周波数ω[rad/s]で正弦的に応力Pを与えると,定常状態ではひずみεも正弦的に変化し,その位相はPよりδ遅れる.よって,応力Pとひずみεは以下のようにかける.
| $P = P_{0}\cos \text{ (}\omega t + \delta \text{)}$ | (11) |
| $\varepsilon = \varepsilon _{0}\cos \text{ (}\omega t\text{)}$ | (12) |
ここでP0とε0は,それぞれ応力とひずみの振幅である.粘弾性体は,粘性の影響で位相遅れが生じるが,その大きさδは,弾性要素が支配的か,粘性要素が支配的かによって異なり,0(粘性率が0の弾性体)からπ/ 2 (= 90°,弾性率が0の粘性体)の間で変化する(Fig. 8).

Dynamic viscoelastic measurement.
動的粘弾性に関する議論を行うには,このひずみと応力の関係を複素平面で考える方が便利である.そして,応力,ひずみもそれぞれP,εのように複素数(2次元のベクトル)で表示する.オイラーの公式(eiθ= cos θ + i sin θ ; i は虚数単位)を用いると,振動の(11), (12)式は以下のように表される.
| $\boldsymbol{P} = P_{0}e^{i(\omega t + \delta )}$ | (13) |
| $\boldsymbol{\varepsilon } = \varepsilon _{0}e^{i\omega t}$ | (14) |
このように複素数で表示すると,正弦的な振動現象は,複素平面状での等速円運動として記述される.Fig. 8の下には,粘弾性体の応力Pとひずみεの複素平面上での挙動を示す.ベクトル(複素数)Pとεはそれぞれ,半径P0,半径ε0の円上を角周波数ωで左回りに等速円運動をする.弾性体では位相遅れδ = 0,粘弾性体ではεがPより位相がδ遅れる.
粘弾性体の振動現象から物体の変形に関わるいくつかのパラメータが算出される.(14)式を時間で微分すると
| $\boldsymbol{\dot{\varepsilon }} = i\omega \boldsymbol{\varepsilon }$ | (15) |
となる.ここで,$\boldsymbol{\dot{\varepsilon }}$はεの時間による微分である.複素数は,虚数単位iを乗ずると複素平面上で原点の回りにπ/2(= 90°)回転する.よって,(14)式と(15)式を比較すると,ひずみの微分$\boldsymbol{\dot{\varepsilon }}$はεよりπ/2(= 90°)位相が進んでいることがわかる.
次に,応力PをFig. 9上に示すようにひずみεの方向の成分P′とεに直角な$\boldsymbol{\dot{\varepsilon }}$の方向の成分P′′に分解すると,
| $\boldsymbol{P} = \boldsymbol{P}' + \boldsymbol{P}''$ | (16) |
となり, P′とε,P′′と$\boldsymbol{\dot{\varepsilon }}$は同じ方向のベクトルとなる.P′とε,P′′と$\boldsymbol{\dot{\varepsilon }}$の絶対値の比によって,動的弾性率(貯蔵弾性率)G′,動的粘-性率η′を以下のように定義する.
![]() | (17) |
![]() | (18) |
ベクトルの向きを考えると,明らかに
| $\boldsymbol{P}' = G' \boldsymbol{\varepsilon }$ | (19) |
| $\boldsymbol{P}'' = \eta ' \boldsymbol{\dot{\varepsilon }}$ | (20) |
の関係が成り立つ.(15),(16),(19),(20)式から,
| \begin{align} \boldsymbol{P} & = \boldsymbol{P}' + \boldsymbol{P}'' \notag \\ & = G' \boldsymbol{\varepsilon} + \eta ' \boldsymbol{\dot{\varepsilon}} \notag \\ & = G' \boldsymbol{\varepsilon} + \eta ' (i\omega \boldsymbol{\varepsilon} ) \notag \\ & = (G' + i\eta ' \omega )\boldsymbol{\varepsilon} \end{align} | (21) |
となる.弾性体においては応力とひずみが比例するが,粘弾性体においても以下のように複素数表示の応力Pとひずみεを関係づける複素弾性率G*を定義する.
| $\boldsymbol{P} = G^{\text{*}}\boldsymbol{\varepsilon }$ | (22) |
| $G^{\text{*}} = G' + i\omega \eta ' = G' + iG''$ | (23) |
となる.このG′′を動的損失(損失弾性率)といい,(23)式からG′′とη′の間には
| $G' ' = \omega \eta ' $ | (24) |
の関係がある.また,複素弾性率G*を用いて複素粘性率η*(≡η′ - iη′′)を以下のように定義する.
| $\eta ^{\text{*}} = G^{\text{*}}/(i\omega )$ | (25) |
この複素粘性率η*の実部(動的粘性率)η′および虚部η′′は,複素弾性率の実部G′(貯蔵弾性率)および虚部G′′(損失弾性率)と以下のように対応づけられる.
| $\eta ' = G' ' /\omega $ | (26) |
| $\eta ' ' = G' /\omega $ | (27) |
次に,位相の遅れδと上記の粘弾性の関係について述べる.(15),(20),(26)式から,
| \begin{align} \boldsymbol{P}'& = (G'' /\omega )\boldsymbol{\dot{\varepsilon }} \notag \\ & = (G'' /\omega )i\omega \boldsymbol{\varepsilon } \notag \\ &= iG'' \boldsymbol{\varepsilon } \end{align} | (28) |
となる.(19),(28)式に関して,両辺の絶対値をとると,
| $| \boldsymbol{P}' | = G' \times | \boldsymbol{\varepsilon} |$ | (29) |
| $| \boldsymbol{P}' | = G'' \times | \boldsymbol{\varepsilon} |$ | (30) |
となる.(29),(30)式から,G′′/G′は,P′′とP′の絶対値の比|P′′|/|P′|に等しい.Fig. 9より,|P′′|/|P′| = tanδなので,
| $\tan \delta = G'' /G' $ | (31) |
の関係が成り立ち,このtanδを損失正接という.

The overview of dynamic viscoelastic analysis.
P: stress (vector) ε: strain (vector)
この項の最後に,動的粘弾性測定から得られる各パラメータの物理的意味を簡単に述べておく.前述のように,物体に応力を加えた場合に,変形し続ける部分を説明する物性値が粘性率,瞬間的な変形量を説明する物性値が弾性率である.動的粘弾性測定においては,弾性体では位相遅れδ= 0,粘性体ではδ=π/ 2(= 90°)である.Fig. 9に示すように複素平面上で,応力ベクトルPはひずみベクトルεよりδ位相が進んでいる.Pのε方向への射影がP′であり,(17)式から|P′|と| ε |の比が貯蔵弾性率G′なので,G′が物体の固体的性質(弾性)を評価する物性ということになる.一方,Pの$\boldsymbol{\dot{\varepsilon }}$方向への射影がP′′であり,(18)式から|P′′|とひずみの時間微分| $\boldsymbol{\dot{\varepsilon }}$ |の比が動的粘性率η′なので,η′が液体的性質(粘性)を評価する物性ということになる.また,(24)式から,損失弾性率G′′(単位は弾性率と同じ[Pa]である)も液体的性質を評価する物性である.“貯蔵”,“損失”という語句は,バネ(弾性体)の運動においては力学的エネルギー(運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和)が保存すること,粘性体の変形では力学的エネルギーが熱として放出されるためである.損失正接tanδは,液体的性質(G′′)と固体的性質(G′)の比なので,値が小さいほど固体的試料ということになる.
3.2.2 食品ハイドロコロイドの動的粘弾性挙動(1)動的粘弾性の挙動に基づくハイドロコロイドの分類[13-15]
多くの食品は,水に“微粒子”が分散したハイドロコロイドであり,温度,濃度(含水率)の変化によって,ゲルやゾルなど様々な形態をとる.その粘弾性挙動は,食品内部の成分の分散構造に依存するが,ここでは多糖に代表される高分子から成るハイドロコロイドの動的粘弾性挙動に関して説明する.
食品ハイドロコロイドは動的粘弾性の角周波数ω依存性からFig. 10のように分類される[14].図の縦軸,横軸の値は共に対数表示する.Fig. 10(a)に,真のゲル(true gel,弾性的ゲル.strong gelともいう)とよばれるハイドロコロイドの動的粘弾性挙動を示す.測定周波数全域において貯蔵弾性率G′が損失弾性率G′′よりも1桁以上大きく,G′,G′′共に角周波数ωに関わらずほぼ一定である.G′>G′′のため,(31)式よりtan δ < 0.1である.また,log10η′ vs. log10ωプロットは,(26)式から傾き-1の直線になる.内部の高分子は3次元の網目構造をとっている.高濃度のゼラチンや寒天などは,この真のゲルに分類される.Fig. 10の真のゲルの右に示す弱いゲル(weak gel)といわれるハイドロコロイドの場合,G′>G′′で,角周波数ωの増加に伴ってG′およびG′′がわずかに増加する.内部の高分子は疑似的な網目構造をとっている.Fig. 10の弱いゲルの右に示す真の高分子溶液(true polymer solution)といわれるハイドロコロイドの場合,低角周波数域ではG′<G′′,つまり粘性が支配的,高角周波数域ではG′>G′′,つまり弾性が支配的となる.内部の高分子は絡み合い構造をとっている.Fig. 10(d)に示す希薄な高分子溶液(dilute polymer solution)とよばれるハイドロコロイドの場合は,測定の全角周波数範囲でG′< G′′, log10 G′vs. log10ωプロットが傾き2の直線,log10 G′′vs. log10ωプロットが傾き1の直線になる.また,(26)式からη′は角周波数によらず一定となる.内部の高分子鎖は孤立して存在している.

Rheological behavior of hydrocolloids.
G′, storage modulus; G′′, loss modulus; η′, dynamic viscosity; ω, angular frequency
動的粘弾性試験は,角周波数ωを変化させることにより,観測時間(1/ω)を変化させた「変形および流動」の度合いを測定していると解釈することができる.3.1.1(3)で述べたように,物体は観測時間が短いと「固体的」,観測時間が長いと「液体的」な挙動を示す.Fig. 10において,真のゲル(a)は測定角周波数,つまり観測時間(1/ω)の範囲で「固体的」,逆に希薄な高分子溶液(d)は「液体的」な挙動を示す.真の高分子溶液(c)は,観測時間が長い(ω小)ときには液体的性質を,観測時間が短い(ω大)のときには固体的性質を示すことになる.要は,Fig. 10は,観測時間による「変形および流動の度合い」の変化によるハイドロコロイドの分類と解釈できる.
Fig. 11には,ゲル状試料の動的粘弾性測定例を示す.試料は,多糖類のゲル化剤で,(1)寒天ゲル(AG),(2)ローカストビーンガムとκ-カラギーナンの混合ゲル(LC),(3)ローカストビーンガムとキサンタンガムの混合ゲル(LX),(4)ネイティブ型ジェランガムゲル(NG)の4種類のゲルである.左側の図においては,測定値に多少のばらつきが見られるものの,いずれのゲルも,G′がG′′より顕著に大きく,周波数増加に伴うG′,G′′の変化が小さいことから,この程度高濃度のゲルはレオロジー的には“真のゲル” であることが確認できる[16].

Frequency dependence of dynamicviscoelastic parameters at 20°C for typical polysaccharide gels.
(a-1) AG 0.30% (b-1)LC 0.17% (c-1) LX 0.05%
(d-1) NG 0.17%
(a-2) AG 0.45% (b-2) LC 0.3% (c-2) LX 0.45% (d-2) NG 0.6%
AG, Agar; LC; Locust bean gum & κ-Carrageenan; LX, Locust bean gum & Xanthan gum; NG, Native gellan gum
▪, G′ ; ●, G′′ ; ⧫, η′ ; ▴, tan δ
Fig. 4に流動特性を示したCMC,キサンタンガム,グアーガムに関して動的粘弾性測定を行った結果をFig. 12に示す.CMCと低濃度のグアガム溶液は,測定の全角周波数範囲でG′<G′′, log10 G′ vs. log10ωプロットが傾き2の直線,log10 G′′ vs. log10ωプロットが傾き1の直線で,希薄な高分子溶液とみなせる.高濃度のグアガム溶液と低濃度のキサンタンガム溶液は,低角周波数域ではG′<G′′,高角周波数域ではG′>G′′で,真の高分子溶液とみなせる.高濃度のキサンタンガム溶液は,G′>G′′で,角周波数ωの増加に伴ってG′およびG′′がわずかに増加し,弱いゲルとみなせる.ただ,高濃度のキサンタンガム溶液は,“ゲル”といっても見かけ上は「トロミのある液体」であった[15].

Angular frequency (ω) dependence of G′and G′′ for CMC, xanthan cum, and guar gum solutions.
Solid symbols (●, ▪, ▴, ⧫), storage modulus, G′; open symbols (○, □, △, ◊), loss modulus, G′′.
(2)ゾル-ゲル転移に関するWinter-Chambonの理論
ゼラチンや寒天などのゲル化剤は,低濃度あるいは高温ではゾル,高濃度あるいは低温ではゲルの状態にある.その他,架橋剤の濃度によってゾルからゲルに変化する高分子溶液もある.このゾルとゲルの境界である臨界ゲル状態(ゾル-ゲル転移点)を与えるのがWinter-Chambonの理論である.WinterとChambonの理論によると,臨界ゲル状態において
| $G' \sim G' ' \sim \omega ^{n}$ | (32) |
| $\tan \delta = G' ' /G' = \tan (n\pi /2)$ | (33) |
が成立する.ここで,nは定数である.ゲル化点におけるnの値は0.3から0.8程度の値をとり,n = 0.5のときにG′=G′′となる.Fig. 10から,ゲル状態ではG′>G′′,ゾル状態ではG′<G′′であり,(32)式から臨界ゲル状態ではG′〜G′′と考えることができる[7, 17].
Fig. 13に15°Cでのゼラチンの動的粘弾性測定結果を示す.3%のゼラチンに関しては,G′≫G′′であり,ゲル状態にあることがわかる.0.6%のゼラチンに関しては,G′<G′′であり,ゾル状態にあると考えられる.0.7%のゼラチンに関しては,G′〜G′′で,臨界状態,つまりゾル-ゲル転移点近傍にあるとみなせる.

Dynamic viscoelastic measurement of gelatin at 15°C.
(3)液体の粘度μと動的粘性率の関係 - Cox-Merz の経験則[15, 18, 19]
本項では動的粘性率と文字の混乱を避けるため,液体の剪断粘度(Fig. 1など2.のη)をμと表記する.粘性液体の流動性を表す粘度(剪断粘度)μは,特定のずり速度$\dot{\gamma }$で測定され,動的粘性率とは異なる物性値である.とくに,ゲルなどの固体・半固体に関しては,η* やη′は測定可能だが,粘度μは測定できない.一方,液体の場合,μ,η*あるいはη′,いずれも実測可能である.
この液体に関する剪断粘度と動的粘性率との関係を示すのがCox-Merzの経験則(Cox-Merz’s empirical rule)である.既に述べたように,粘度μはずり速度 $\dot{\gamma }$の関数(μ=μ($\dot{\gamma }$)),η*,η′,η′′は角周波数ωの関数(η*= η*(ω),η′=η′(ω),η′′=η′′(ω))であるが,Cox-Merzの経験則は,「ずり速度$\dot{\gamma }$と角周波数ωの値が等しいとき,粘度μと複素粘性率η*の絶対値|η*|の値は等しい」というもので,数式で書くと以下のようになる[18].
| $\mu = |\eta ^{\text{*}}|( = (\eta ' {}^{2} + \eta '' {}^{2})^{1/2})\quad \text{at}\ \dot{\gamma } = \omega $ | (34) |
ただし,レオロジーでは習慣上,複素粘性率η*の絶対値を単にη*と書くことが多い.
Cox-Merz経験則は,「観測時間(〜1/$\dot{\gamma }$および〜1/ω)が等しいときには,液体の剪断粘度と複素粘度が一致する」と主張している.Cox-Merz経験則は多くの高分子溶液に適用できるが,前述の「弱いゲル」に関しては,η*がμの数倍程度になる[19].Fig. 9の中央に,Cox-Merz経験則を示す.
Fig. 14に,Fig. 12と同様の3種類の増粘剤であるCMC,キサンタンガム,グアーガムの水溶液に関して,ずり速度$\dot{\gamma }$に対して粘度μ,角周波数ωに対して動的粘性率η′および複素粘性率η*をプロットした結果を示す.$\dot{\gamma }$=ωのとき,CMC,グアーガム,低濃度のキサンタンガムに関しては,μ,η*,η′はほぼ等しい.これは,これらの増粘剤溶液に関しては,(34)式で示されるCox-Merzの経験則が成立していること,η′′が小さいことを意味している.ただ,1.5%キサンタンガム溶液に関しては,$\dot{\gamma }$=ωのとき,η*がμより大きい.これは,Fig. 12の動的粘弾性測定結果から,高濃度のキサンタンガム溶液は弱いゲルであるためと考えられる[19].

Shear rate ($\dot{\gamma }$) or angular frequency (ω) dependence of μ, η′, and η* for CMC, xanthan gum, and guar gum solutions.
Open symbols (○, □, △, ◊), dynamic viscosity, η′ ; solid symbols (●, ▪, ▴, ⧫), complex viscosityη*; +, ×, steady shear viscosity, μ.
高齢社会を迎えた今日,口から取り込まれた食物が正常な過程を経て食道から胃へと到達せずに気管を経て肺へ到達してしまう誤嚥を起こす高齢者が増加している.そのため,増粘剤を添加した高齢者用食品の開発が行われている.筆者らは,人体に安全な超音波パルスドップラ法を用いて嚥下時の咽頭部における食塊の流速測定を行った.その結果,誤嚥しにくいとされるヨーグルトの咽頭部における最大流速Vmaxが,誤嚥しやすい代表である水の1/3~1/2程度であった.このことから,Vmaxが誤嚥の危険性の指標になりうると考え,食品ハイドロコロイドのレオロジー特性とVmaxの関係について検討を行った[12, 15, 16, 20-26].ここでは,その結果のいくつかに関して簡単に述べる.
4.1 増粘剤溶液の粘性と咽頭部最大流速の関係代表的な増粘剤であるキサンタンガム,グアーガム,CMCの溶液に関して,μ,η′,η*の値が増加する程,Vmaxの値は低下し,ヨーグルトの値に近づく傾向があることを示した(データ省略).これはμ,η′,η*が液状の嚥下障害者用介護食の物性指標として有効であることを意味している[12, 15, 23, 24, 26].
4.2 ゲルの力学物性の臨界挙動と咽頭部最大流速の関係[11]ゲル化剤を用いて,力学物性の臨界挙動と咽頭部流速の関係を検討した結果について簡単にふれる.ここでは,剪断粘度と動的粘弾性を区別するため,3.2.2(3)と同様に,剪断粘度をμ,動的粘性率をη′と表す.粘度(μ)測定には,B型粘度計を,η′の測定には2つの動的粘弾性測定装置Rhosol-G5000およびAR-G2を用いた.Fig. 15 (a)に,市販のκ-カラギーナン製剤の動的粘性率η′(ω=6.28 rad/s)と粘度μ(ずり速度$\dot{\gamma }$=6.68 s-1)の濃度依存性を示す.前述のように,ゲル化剤で調製された試料において粘度が測定可能なのはゾルの場合であり,ゾルと考えられる低濃度領域では,粘度μとη′は近い値を示した.これは,Cox-Merz の経験則[18]からμ≒η*であることと,η′′が小さい液体では,η*≒η′となるためと考えられる.

Critical behavior of dynamic viscosity (η′) of κ- carrageenan and velocity of passage through human pharynx.
(a) Dependence of dynamic viscosity (η′) and sol viscosity (μ) near sol-gel transition point on concentration.
(b) Relation between η′ and the maximum velocity through pharynx Vmax.
η′は,濃度上昇に伴い増加する傾向がみられた.ただし,濃度1.5~1.6%ではη′の増加傾向が特に顕著であったのに対し,濃度2%以上では増加がゆるやかであった.こうしたη′およびμの挙動から,用いたゲル化剤に関しては,ゾル-ゲル転移濃度が1.5~1.6%付近であることが推定された.明確なゾル-ゲル転移濃度が決まらなかったのは,この試料の不均質性によると考えられる.
Fig. 15(b)にη′と咽頭部最大流速Vmaxの関係を示す.Vmaxの値は,η′の増加に伴って減少するが,その減少率はゾル領域では大きく,ゾル-ゲル転移点付近から次第に緩やかになる.このように,食品ハイドロコロイドの状態変化に伴うレオロジー特性の変化によりVmaxの値が影響を受けることが示された.ただ,実際にゲル化剤を使用する場合,Fig. 15に示すようなゾル-ゲル転移点からはかなり離れた高濃度側で調製されると考えられる.
レオロジーは,「物質が外力に対してどのように変形・流動するかを研究する学問」である.粘弾性などの物性値,緩和時間などの概念を用いて,液体,固体の流動,変形に関して,硬さ,柔らかさの意味を論理的に定式化する.また,物性値の挙動を解析することにより,食品ハイドロコロイド内部の分子の分散状態,絡み合い状態を推測することができる.本稿では,液体の粘度,粘弾性の概念,その静的,動的な測定原理に関して概説した.静的な測定としては,クリープ試験,応力緩和,フォークト模型,マックスウェル模型,緩和時間などについて説明した.動的粘弾性に関しては,貯蔵弾性率,損失弾性率,損失正接,複素粘性率,動的粘性率などのパラメータの物理的意味について説明し,食品ハイドロコロイドの分類法に関して述べた.また,ゾル-ゲル転移に関するWinter-Chambonの理論,剪断粘度と複素粘性率を関係づけるCox-Merzの経験則について説明した.
次回は,食品ハイドロコロイドのレオロジーに関して解説する予定である.