日本食品工学会誌
Online ISSN : 1884-5924
Print ISSN : 1345-7942
ISSN-L : 1345-7942
厨房排水に含まれる油の微生物処理
藤井 英子恒松 智之神元 裕樹香田 次郎末原 憲一郎中野 靖久矢野 卓雄
著者情報
ジャーナル フリー

2003 年 4 巻 4 号 p. 123-129

詳細
抄録

各種飲食店には, 厨房排水中の油分を除去するためにグリーストラップと呼ばれる油水分離槽が設置されている.グリーストラップ内に滞留した油脂は, 下水道に流出しないように定期的に回収, 処分され, 槽内は清掃される.この回収処分および清掃に係る労働負荷と経費を軽減するため, グリーストラップ内における微生物を用いた排水中油脂の分解を試み, 窒素化合物添加の必要性, 厨房作業が行なわれない8時間の間に油脂を完全分解するのに必要な初期微生物濃度などの運転条件について検討した.
微生物を用いた排水中の油分解条件の最適化を検討する前に, 広島市近郊の354店の飲食店のグリーストラップの大きさを調査した.グリーストラップの大きさは飲食店の使用水量に関係なく, 設置場所の広さによるところが大きかった.
厨房排水の特徴を把握するため, グリーストラップ内の厨房排水, 17試料中の油と窒素濃度を測定した.ほとんどの排水試料の油含有量は0.03gヘキサン抽出物/L以上であった.ある洋食店の排水には2.12gヘキサン抽出物/Lの高濃度の油が含まれていた.すべての試料において, 生物学的排水処理を行うには窒素含有量はかなり低かった.
1L当たり10g大豆油, 1.2g硫酸アンモニウム, 1.0g酵母エキス, 200mg硫酸マグネシウム, 200mgリン酸水素カリウムを含む人工排水を用いて, あるグリーストラップの排水中から分離した酵母, Rhodotorula mucilaginosaの油分解条件の検討を行った.ジャーファーメンターを用いた試験では, 2リットル容のジャーファーメンターに人工排水1.6Lを入れ, 空気流量0.5L/min, 30℃, 攪拌羽根回転数450rpmで運転した.C/N比は31, 温度は30℃, pHは6において良好な油分解性能を示した.
実際の厨房排水を用いた油分解試験では, 1L当たり1.2g硫酸アンモニウム, 1.0g酵母エキス, 200mg硫酸マグネシウム, 200mgリン酸水素カリウムの栄養源の添加とともに, 温度を30℃, pHを6に保つことにより, 排水中に存在する微生物の働きにより速やかな油分解が観察された.
調査の結果, 厨房作業を行わない時間は8時間であった.すなわち, 8時間のうちにその日に回収したグリーストラップ中の油脂分解を完了する必要がある.そのために必要な初期菌体量を検討した結果, 10g/Lの油脂の処理には33g dry cells/LのR. mucilaginosa菌体が必要であった.このような大量の菌体を準備することは経済的に大変であるため, 今後, グリーストラップ内に微生物固定化担体を設置するなどの検討が必要であろう.

著者関連情報
© 日本食品工学会
前の記事 次の記事
feedback
Top