水産海洋研究
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Print ISSN : 0916-1562
原著論文
土佐湾におけるニギス仔稚魚の成長
梨田 一也
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キーワード: ニギス, 仔稚魚, 耳石, 日周輪, 成長
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2020 年 84 巻 2 号 p. 61-70

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抄録

ニギスは日本周辺における沖合底びき網漁業の主要な漁獲対象種の一つである.魚類発育初期の成長の良否は生残を左右し,資源加入にも影響を及ぼすと考えられるが,ニギス仔稚魚の成長・生残に関わる知見は少ない.2008年4月から2010年3月にかけて,日本の南西部に位置する土佐湾において小型のオッタートロール網を用いてニギス仔稚魚を毎月採集した.標準体長(SL)組成の経時変化により,2–7月頃に小型個体(SL<40 mm)が加入し,約100 mm SLに成長するまで連続的に採集された.明確に識別されたコホートを複数月にわたり追跡し,採集日の間隔と耳石輪紋増加数がほぼ一致することから耳石輪紋の日周性が確認された.採集個体の第一輪形成日(DFRF)を年毎に集計した結果,いずれの年も2–7月に緩やかなピークを持つ単峰型であったことから,土佐湾のニギスは初春から初夏に産卵盛期を有すると考えられた.このことは,日本海におけるニギスが春季と秋季に二つの産卵期を持つという従来の知見とは異なっている.月別のDFRF分布から2008年には春季と夏季の2つのグループが示されたのに対し,2009年では一つのグループ(春季)のみが示された.成長パターンを明らかにするため,2008年と2009年の各グループにおいて第1輪から第56輪までの耳石輪紋間隔を5日ごとに平均した.2008年および2009年春季グループは2008年夏季グループに比べ耳石輪紋間隔は狭い傾向であったが,特に早く採集された個体(短期生残個体)は遅く採集された個体(長期生残個体)に比べ耳石輪紋間隔が狭かった.しかし,2008年夏季グループにおいては短期生残個体の方が長期生残個体よりも耳石輪紋間隔が広い例がみられた.以上により,土佐湾のニギスは発育初期の環境に恵まれなかった場合には成長選択的に生残することが示唆された.

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© 2020 一般社団法人 水産海洋学会
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