抄録
栃木県奥日光の湯ノ湖でサケ科魚類(カワマス・ビワマス・ヒメマス)におけるハス鉤頭虫Acanthocephalus opsariichthydisの寄生度に関与する生態学的要因を調査した。湖の沿岸帯底層に多く生息して底生動物を主餌料としているカワマスは,同じく沿岸帯浅水域の底土に集中分布する本鉤頭虫の中間宿主ミズムシAsellus hilgendorfiを摂食する機会が多いことから,その寄生を多数受けていた。これに対し,ビワマスとヒメマスの生息域は表層かつ沖合に広がっており,それぞれ魚類と動物プランクトンを多く捕食するため,底生動物も摂るものの,本鉤頭虫の寄生数は少なかった。以上のことから,本鉤頭虫の場合も,魚における寄生度を決定する主な要因は魚類の食性における中間宿主との捕食者・被食者関係であることが確認されたほか,両者の生息域の異同が寄生度を軽減または助長させる副次的な要因として関与していることが明らかになった。