抄録
1986 年のRB1 遺伝子の単離以来,多くの家族性腫瘍の原因遺伝子がゲノム解析により同定され,PCR などの分子遺伝学的技術も発展し,家族性腫瘍の原因となる変異遺伝子の保因者診断が可能となった.わが国では2001年以降,文部科学省,厚生労働省,経済産業省3 省合同のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針,遺伝関連10 学会による遺伝学的検査に関するガイドラインが策定され,全国遺伝子医療部門連絡会議が発足して,78 施設で遺伝子医療が実施されている.2008 年には13 疾患の遺伝学的検査が保険収載され,遺伝カウンセリング加算が認められるなど制度面でも前進した.しかし,家族性腫瘍はいまだこの中に含まれず,また,縦割りの病院診療体制の中,横断的な遺伝子医療自体を疑問視する意見も根強い.認定遺伝カウンセラーの職域確立も困難に直面している.また,医療従事者と一般国民双方の遺伝学教育の充実も急務である.原疾患の予防,診断,治療法の向上とともに,上記課題の克服が遺伝子医療に不可欠と思われる.