コモンズ
Online ISSN : 2436-9187
論文
認知症ケアと社会的包摂
蔭久孝統
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 2022 巻 1 号 p. 41-72

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抄録

 昨今の認知症関連施策では、認知症者に対する社会的包摂が謳われている。しかし、現段階ではそれらの効果は限定的であり、一般社会を巻き込むには至っていない。一方で、多方面から高い注目を集めているのが「注文をまちがえる料理店」である。そこで、本稿では、注文をまちがえる料理店及びその派生形態の調査を行う事で、注文まちがえる料理店が現代の認知症ケアの中で果たした役割と課題について分析し、認知症者の社会的包摂のよりよい在り方について新たな知見を得る事を目的としている。  調査の結果、注文をまちがえる料理店及び各地の派生的活動は、これまで主体性を持ち得なかった認知症当事者が、社会の中で活躍する姿を発信する場として機能している事がわかった。一方、注文をまちがえる料理店の取り組みは、時間、場所共に限られた非日常的なイベントであることから、認知症という変化に敏感な状態にある人々にとって、時に大きな負担としてのしかかる。そのような課題に一つの答えを見出したのが愛知県岡崎市にあるちばる食堂である。ちばる食堂は、常設店として認知症者の「就労」の場を作り上げている。ちばる食堂で働く認知症の人々は、一時的ではなく継続的な労働を通して、自身の個性を活かし食堂を支える “ プロフェッショナル ” として自らの手で自身の居場所を形成している。  これまでの認知症関連施策は、認知症当事者を、ケアを受ける受動的な存在として扱ってきた。一方で、“注文をまちがえる料理店”やちばる食堂の取り組みは、認知症の状態にある人々がホールスタッフとして働く事で初めて成立する。その空間の主役という立場が、認知症ケアの外側に置かれていた認知症当事者に主体性をもたせ、埋もれていた潜在能力を引き出すのだ。それらの取り組みは、認知症当事者が、ケアを受けるだけの存在ではなく、一般社会、そして実生活の中で主体性をもって活躍出来る力を持っている事を示している。

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© 2022 未来の人類研究センター
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