抄録
MEN1 では,下垂体(前葉),副甲状腺,膵(ラ島,十二指腸)を中心に複数の臓器に内分泌腫瘍が発生し,常染色体優性遺伝形式をとり,家系内に遺伝する症候群である.MEN1 では原発性副甲状腺機能亢進症が最も高頻度に認められ,ついで膵内分泌腫瘍,下垂体(前葉)腫瘍がつづく.さらに副腎皮質腫瘍,甲状腺腫瘍,カルチノイド等を認める.
治療はいずれの臓器もMEN1 特有の治療法が存在している.副甲状腺は副甲状腺全摘,自家移植術,膵腫瘍は核出術,膵部分切除,膵頭温存十二指腸全摘術等を行い,下垂体腫瘍の多くは薬物療法で経過観察される場合が多い.
MEN1 遺伝子はMEN2 のRET 遺伝子とは異なり変異部位と表現型の関連性が低く,またMEN1 では必ずしも癌が発生するとは限らないことと,膵の場合には全摘するとQOL 低下を招くことなどから遺伝子検査に基づいた予防切除は行われていない.しかし,下垂体腫瘍のようにMEN1 遺伝子検査が早期発見に貢献し,外科治療をしないで済んでいる場合もある.
MEN1 の予後を左右するのは膵腫瘍であり,早期切除するかQOL を重視し保存的に経過観察するかはいまだ結論は出ていない.
今後MEN1 症例の増加が予想され,長期生存例に対するカウンセリングが重要となる.