老年歯科医学
Online ISSN : 1884-7323
Print ISSN : 0914-3866
ISSN-L : 0914-3866
臨床報告
上下顎ともに顎堤が高度に吸収した総義歯症例
磁石の反発力を応用した咬合調整法
堀江 伸行渡邉 武之池田 浩子西山 留美子森 晶子鈴木 啓介鈴木 潔中川 種昭
著者情報
ジャーナル フリー

2010 年 25 巻 1 号 p. 37-42

詳細
抄録
歯やインプラントによる維持·安定が得られない顎堤の著しく吸収した総義歯の咬合調整は, 咬合力により義歯の移動や床下粘膜の変形が生じるため, その早期接触部位の検出は通常の方法ではきわめて困難である。われわれは, そのような総義歯症例にも適正な咬合調整を可能にするために使用されるCoble balancerに着眼し, 磁石の反発力を利用して咬合接触部位の検出時に義歯を安定させる咬合調整用補助装置MAG-balancerを考案し使用してきた。今回われわれは, 上下顎顎堤が著しく吸収した総義歯症例に対して本装置を用いた咬合調整を行い, 良好な結果を得たのでその経過を報告する。患者は初診時年齢82歳, 女性。主訴は上下顎総義歯の動揺および咀嚼困難であった。上下顎残存顎堤は前歯部·臼歯部とも著明な吸収が認められ, 上顎前歯部は口腔前庭と歯槽頂が連続している。上下顎義歯を咬合させると推進現象も起きていた。通法に従い上下顎総義歯を製作した。臼歯部人工歯は咬頭傾斜35°の陶歯を選択し, 義歯の咬頭嵌合位をしっかりと決めて下顎位の安定を図った。推進現象を軽減するために排列に際して前後彎曲および側方彎曲は強めにしたが, 新義歯装着時にも推進現象が認められた。手圧による義歯床の適合試験では比較的良好な適合状態であったので, 咬合状態の不均衡が原因であると推測された。本症例のような義歯は, 従来用いられている方法では早期接触部位の検出が困難なため, 適正な咬合調整を行うことは難しい。そこでMAG-balancerを用いて咬合調整を行うことにした。MAG-balancerを用いた咬合調整後は明らかに推進現象の軽減が認められ, 早期接触部の除去を行うことができた。患者も疼痛を訴えることなく咀嚼可能となった。
著者関連情報
© 2010 一般社団法人 日本老年歯科医学会
前の記事 次の記事
feedback
Top