抄録
摂食·嚥下障害に対する義歯型の補助具が, 舌, 頬, 口唇, 軟口蓋などの運動や感覚の補助, 安定した咬合位の確保, および咀嚼や嚥下機能の維持, 改善のために使用されている。しかし, 義歯型補助具の使用状況や適応患者がどの程度存在するかの実態は把握されていない。そこで歯科診療所3,000カ所, 歯学部付属病院29カ所, 一般病院歯科500カ所を対象に, 郵送法による質問紙自記入方式によって義歯型補助具に関する実態調査を行った。
義歯型補助具作製の有無は, 歯学部付属病院および一般病院歯科の全体で, 「ある」が34.3%, 「ない」が65.3%であり, 歯科診療所全体では「ある」が3.0%, 「ない」が96.9%であった。補助具作製が行われない理由は「費用弁償がない」「補助具に関心がない」が上位であった。
全国の義歯型補助具に関する臨床推計の結果, 必要な義歯型補助具のうち, 歯学部付属病院では4.5%, 一般病院歯科では53.8%, 歯科診療所では82.1%が作製されていなかった。義歯型補助具が適応とされる患者は年間16,368例であり, それに対して約11,922例に義歯型補助具が作製されていないことが推計された。さらに要介護高齢者214名を対象に摂食·嚥下機能の調査を行い, そのうちの2割ほどが義歯型補助具の対象になることが推察され, 器質的ばかりでなく, 脳卒中や認知症をはじめとする運動性の摂食·嚥下障害においても潜在的需要が少なからず存在することが示唆された。