抄録
今回われわれは口底癌術後に重度の摂食·嚥下障害を併発した症例に対して, バルーン拡張法を行った一症例について報告する。
症例は60歳男性で, 口底癌のため, 当院の口腔外科にて腫瘍切除術を行った。術後に重度の摂食·嚥下障害が認められたため, 当科に精査および訓練を依頼された。初診時, 咀嚼や食塊の送り込みなどの口腔期の障害に加えて, 喉頭挙上, 食道入口部開大の障害が認められた。そこで, 栄養方法を経鼻経管栄養法から間欠的経管栄養法に変更し, バルーン拡張法を行った。バルーン拡張法を開始して4週間後の嚥下造影検査において, 咽頭残留の減少, 喉頭挙上量と食道入口部の開大量の増大が認められたため, バルーン拡張法を終了し, 全粥とペースト状の副食の経口摂取を開始した。その後1年3カ月が経過した時点では, 食道入口部の開大量と嚥下圧はわずかに減ったものの, 咽頭残留は認められなかった。今回の症例により, バルーン拡張法は口底癌術後に食道入口部の開大不全が認められた患者に対して有効な訓練手技である可能性が示唆された。また, この症例においてバルーン拡張法終了後の後戻りはないと推測した。