2024 年 39 巻 supplement 号 p. 3-7
緒言:今回,誤嚥性肺炎の既往がある脳卒中患者に歯科訪問診療による義歯新製を行い,栄養摂取状況が改善した症例を経験した。
症例:82 歳,男性。小脳梗塞後遺症による嚥下障害で胃瘻造設を受け,その後嚥下機能改善術を受けたが,誤嚥性肺炎から膿胸を発症し入院となった。入院中の義歯未装着により自宅退院時には義歯装着が困難となり,家族から歯科訪問診療の依頼を受けた。初診時の口腔衛生状態は不良で,残存歯による咬合支持は喪失していた。主訴部位の左上34にはC3のう蝕を認め,上下顎義歯は鉤歯の傾斜により装着できなかった。かかりつけの主治医からは口腔衛生状態と咀嚼機能の改善を依頼された。
経過:口腔内の状態を本人と家族に説明し治療を計画した。左上34は抜髄後に根面被覆を行い,上下顎の義歯新製を行った。新義歯装着後は言語聴覚士が中心となって摂食嚥下リハビリテーションを行い,1カ月後には3食経口摂取が可能になった。BMIは18.90 kg/m2から19.60 kg/m2,FOISはレベル2からレベル6に改善した。
考察:本症例は胃瘻造設と嚥下機能改善術を受けた小脳梗塞後遺症の患者であったが,義歯新製による咬合支持と咀嚼機能の回復および摂食嚥下リハビリテーションにより栄養摂取状況が改善した。歯科訪問診療による咀嚼機能の回復と口腔健康管理は,脳卒中患者の口腔機能と経口摂取状況を改善したと考えられた。