老年歯科医学
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特別養護老人ホームにおける歯科診療
第1報 全身状態と口腔内状況との関連について
金 容善渋谷 徹丹羽 均神吉 利美久山 健松浦 英夫
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1996 年 11 巻 1 号 p. 52-61

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抄録

特別養護老人ホームに併設された歯科診療所受診者の全身状態と口腔内状況との関連について臨床統計的観察を行い, 以下の結果が得られた。
1.全身的基礎疾患としては, 脳動脈硬化症, 高血圧症, 虚血性心疾患などの循環器系疾患が上位を占め, “多疾患でしかも多種多剤併用” という高齢者疾患の特徴がみられた。
2.安静時の標準12誘導心電図所見では, 臨床症状を自覚していなくても, 完全房室ブロックに移行する危険性のあるものや, 広範囲にわたる心筋梗塞がみられ, 高齢者に対する心電図検査は必須事項であると思われた。
3.ADLの低下が, そのまま口腔衛生状態および機龍の低下に結びつくことが示唆され, 歯科治療に対して受け身にならざるを得ない環境に置かれている高齢者に対しては, 歯科医療従事者側からの積極的な働きかけが不可欠であると思われた。
4.片麻痺患者では, 部分床義歯着脱時にクラスプなどの維持装置の扱いが困難なため, 装着率が極端に低く, 部分床義歯の設計段階において特別な工夫が必要であると思われた。
5.虚血性心疾患患者では, 積極的な歯科治療が敬遠されてきたため, 口腔内状況が極めて悪いことが示された。
6.意志の伝達がうまくできない痴呆患者では, “食欲減退” など歯科とは一見関係が無いような徴候の原因が歯科疾患である場合もあり, このような徴候をも見逃さないことが重要であると思われた。

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© 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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