老年歯科医学
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特別養護老人ホームにおける歯科診療
第3報診療経過からみた歯科医療の必要性と問題点について
金 容善丹羽 均高木 潤崎山 清直市林 良浩神吉 利美久山 健松浦 英夫
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1997 年 12 巻 1 号 p. 18-25

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抄録

特別養護老人ホーム (定員300名) と精神薄弱者更生施設 (定員100名) を併設する社会福祉施設において歯科を開設して以来2年6ヵ月の間に, 歯科を受診し実際に何らかの処置を行ったホーム入所者156名の診療経過を分析し, 考察を加えた。歯科には常勤の歯科衛生士が1名配属され, 当講座からは非常勤の歯科医師が1名ずつ週に2回派遣された。
初診時の年齢分布では, 80歳代が最も多く, 平均年齢は79.7歳で, 男女比は1: 1.7であつた。初診時の主訴の内容は, 義歯関連が55.8%, 腫脹・疼痛が34.0%であり, 加齢とともに義歯関連の主訴が増加していた。受診回数は延べ1, 724回で, 一人平均は11.1回であった。
処置の内容は, 義歯関連が延べ183名, 局所麻酔下での処置が延べ175名であった。延べ歯数は, 抜歯が248本, 補綴・修復処置は192本, 歯内治療は109本であった。診療が進むにつれて歯内治療と歯冠補綴・根面板が増加し, 義歯関連は減少した。
2年6ヵ月の間に, 156名のうち19名が亡くなられ, 死亡平均年齢は84.6歳であった。
施設内に歯科があれば入所者の定期的な受診と先を見据えた診療が可能で, 大きな成果を挙げることができる。しかし, ホーム入所者の口腔衛生状態や全身状態は不良で, 治療に際しては, 誤嚥防止のための患者の姿勢保持や基礎疾患に対する全身管理は必須である。また, 長い年月をかけて顎位が失われ, 残存歯の状態も厳しい症例がほとんどで, 義歯作製にあたっては, 創意工夫が必要である。

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© 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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