老年歯科医学
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拡張型心筋症患者の歯科治療経験
高井 経之小笠原 正渡辺 達夫笠原 浩
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1997 年 12 巻 1 号 p. 32-38

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抄録

我々は3回の脳梗塞の既往を持つ心房細動を伴った拡張型心筋症患者の歯科治療を経験した。患者は65歳の男性で, 左上犬歯の修復物脱離を主訴として来院した。術前評価として, 脳梗塞後遺症により片麻痺が残っているものの自力歩行は可能であり, 心不全症状はなかった。心エコーでは, 左室内腔の増大, 左室の収縮機能の低下がみられるものの僧帽弁などの閉鎖不全は認められなっかた。さらに慢性心房細動があるが, 安静時心拍数は90回/分, 血圧160/90mmHgであったので, 通常の歯科治療は可能と判断した。
しかし, 突然死が多い拡張型心筋症であり, 血圧も高めであったので, モニタリング下での慎重な対応が必要であると思われた。常用薬としてワーファリンを内服していたが, TT値は47%であったので, 歓血的処置時の止血に際しては問題ないと判断した。
実際の歯科治療は, 心電図, 血圧, 心拍数のモニター下にて笑気吸入鎮静法と3%プリロカイン.(1/30万エピネフリン含有) の局所麻酔を併用し, 無痛的な歯科治療を心掛け, 抜髄から前装冠装着までの治療を計6回で行った。治療中は一過性の心拍数の上昇と散発性の心室性期外収縮が数回出現したが, 重篤な合併症を起こすことなく歯科治療を行うことができた。

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© 一般社団法人 日本老年歯科医学会
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