抄録
わが国では高齢社会の到来により痴呆患者の増加が予測され, それに伴い痴呆患者の歯科受診の機会も増加が予測されている。痴呆患者は精神障害を有するため, 歯科治療時に協力を得ることが困難な場合が多く, 特に重度の痴呆を有する患者では, 疾病に対する理解力に乏しいため, 歯科治療時の対処に苦慮することがある。今回われわれは, ミダゾラムを用いた静脈内鎮静法 (以下IVS) 下に管理を行った, 重度痴呆症患者の歯科治療の2症例を経験した。
症例1: 75歳, 女性でアルツハイマー病患者であった。5日前より異常行動が認められるようになった。明確な痛みの訴えはなかったが, 3日前より左側眼窩下部の腫脹を認め, 家族および担当職員に付き添われて当院を受診した。3回のIVS下に5歯の抜歯を行った。ミダゾラムの平均使用量は0.050mg/kg, 平均処置時間は30.0分, 回復するまでの時間は平均91.7分であった。
症例2: 61歳, 女性でアルツハイマー病患者であった。数日前より右側臼歯部の自発痛を訴えかかりつけの歯科を受診し, 上顎右側智歯の翻蝕を指摘された。開口の維持は不可能であり歯科治療が困難なため当科を受診した。4回のIVS下に4歯の治療を行った。ミダゾラムの平均使用量は0.087mg/kg, 平均処置時間は32.5分, 回復するまでの時間は平均85.0分であった。
重度痴呆患者の場合の行動管理法の1つとしてIVSの応用は, 十分な全身管理下であれば有用であると考えられた。