抄録
本格的な高齢社会を前に, 歯科治療のニーズも変化しつつある。これまでは敬遠されがちであった有病者や要介護高齢者に対する歯科治療も, 病院歯科や訪問歯科診療事業等により積極的に行われるようになった。基礎疾患の多い有病者や全身的予備力の低下した要介護高齢者においては, 例え歯科治療と言えども様々な全身的合併症を引き起こす可能性があり, 入院下に歯科治療を行うことはその安全性において有意義な方法と言える。今回我々は, 当科で行ってきた入院歯科治療の現状を調査し, 利点と欠点について検討した。その結果, 有病者や要介護高齢者に対する入院歯科治療は有用な方法の一つと考えられたが, 高齢者にとっては病院という環境の変化が弊害となる場合もあり, 通院治療や訪問治療も上手に組み合わせて活用されるべきと考えられた。また入院歯科治療の受け入れ先としては既存の入院設備がある病院歯科が最も適しており, これらを最大限に生かすためにも, 日頃から病院歯科は地元歯科医師会や行政, 一般開業医との密なる連携システムを構築しておくべきと思われた。