抄録
脳卒中患者を中心とした要介護高齢者は, 摂食嚥下障害により誤嚥性肺炎を生じやすいため口腔ケアの重要性が強調されている。口腔ケアに際して, 口腔微生物叢を把握しておくことは口腔衛生管理のために重要である。本研究では, 高齢脳卒中患者3o名 (男性17名, 女性13名, 平均年齢70.1±6.9歳) の舌背部, 健康高齢者32名 (男性7名, 女性25名, 平均年齢78.4±7.6歳) の舌背部ならびに咽頭部におけるカンジダ菌と好気性細菌の培養検査を実施し, カンジダ菌の分離とその菌量の増減に関する口腔衛生学的意味ならびに常在菌叢の変化について検討を行った。舌背のカンジダ菌分離率は, 高齢脳卒中患者群では陽性14名 (47%), 擬陽性0名 (0%) の合計47%, 健康高齢者群では陽性4名 (12.5%), 擬陽性15名 (46.9%) の合計59%であり, 両群間に有意差はなかった。しかし陽性 (菌数10℃FU/ml相当数以上) で比較すると, 高齢脳卒中患者群が47%で, 健康高齢者群が12.5%であり, 高齢脳卒中患者群の方が有意 (p<0.01: Fisher's exact probability test) に高率であった。また, 好気性細菌培養結果としては, 脳卒中患者群の舌背, 健康高齢者群の舌背および咽頭とも, 最も多く分離されたのが緑膿菌であったが, 健康高齢者群と高齢脳卒中患者群との間で緑膿菌の陽性率に差は認められず, 脳卒中患者において緑膿菌の分離は特徴的なものではなかった。したがって, 脳卒中患者においてカンジダ菌が陽性 (10℃FU/ml) 以上分離されることは特徴的なものだと考えられ, 舌背部のカンジダ菌陽性は口腔微生物検査における検索項目として有用であると思われた。