要介護高齢者が義歯を使用できるか否かは, 身体的能力や精神的能力などによって影響されることが知られている。
しかし, 同等のADL, 日常生活の自立度や痴呆度でありながらも一方の高齢者では義歯が使用できるが, 他方の高齢者では義歯が使用できないといった事例を多々経験する。
要介護高齢者が義歯を使用できるか否かは, 単に現在の口腔内状態, ADLや痴呆度などに依存するだけでなく, 義歯を使用しなければならなくなって以来の入院歴や家族歴を始めとする人生における各種事象の影響が累積して形成された一種の生活習慣とも考えられる。
そこで, この義歯使用者と不使用者とを分ける要因を明らかにするために, 徳島県下の介護保険施設に入院・入所している上下無歯顎者 (男性16人, 女性55人, 合計71人, 平均年齢85.0±5.9歳) を対象に, 全部床義歯の使用・不使用, ADL, 口腔に関連するADL, 日常生活の自立度, 痴呆度などについて調査を行った。その結果, 以下のような結論を得た。
1.全部床義歯の使用率は, ADL, 口腔に関連するADL, 日常生活自立度, 痴呆度の悪化とともに低下したが, 入院・入所回数や同居家族数とは関連性がなかった。
2.痴呆がありADLが中等度あるいは低度の被験者群では, 義歯の着脱や口腔清掃が自分自身で可能か否かが義歯の使用率に大きく影響する可能性が示唆された。
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