抄録
目的: 無歯顎高齢者における義歯の有無が機能時垂直性口唇圧に及ぼす影響を明らかにする目的で, 本研究を行った。
対象と方法: 対象は, 全身および口腔機能に特記すべき異常・疾患がなく, 無歯顎で上下総義歯を装着している高齢者10名 (男性4名, 女性6名, 平均年齢78.4±3.7歳) である。対象者に座位姿勢をとらせて2ccの水を嚥下させ, その際の「嚥下時口唇圧」を測定した。測定には, 厚さ2mmのプラスティック平面版の口唇中央部と口角部の2カ所に圧力センサを埋設した口唇圧測定器を用いた。各設定につき5回測定を行い, 得られた圧波形から, 「嚥下時口唇圧」「嚥下時口唇圧作用時間」「嚥下時口唇圧積分値」を求めた。統計学的有意差の検定は, 「義歯装着時」を基準とし, 「義歯未装着時」の変化率を求め, 検定にはWilcoxon符号順位検定を用いた。
結果と考察: 中央部の「嚥下時口唇圧積分値」において, 有意な増加が認められた (p=0.037) 。本研究の結果より, 無歯顎者は義歯の未装着により嚥下時の固有口腔の容積が狭くなり, 口唇閉鎖に影響が及ぼされていることが示された。