高齢者ケアの現場において, タンパク質・エネルギー低栄養状態 (protein-energy malnutrition: PEM) の予防は, 生命・QOL維持において極めて重要な課題である。口腔機能の低下はPEMのリスク要因のひとつとして挙げられている。今回, 舌の運動機能の客観的評価を目的として開発された簡易型舌圧測定装置を用い, PEMと舌機能との関係を検討した。
対象は特別養護老人ホームに入居する要介護高齢者83名である。舌の運動機能は運動範囲, 運動速度および運動の力としての口蓋に対する舌の最大押し付け圧 (舌圧) を評価した。PEMリスク群は血清アルブミン3.5g/dl以下もしくは過去半年間の体重減少率が5%以上の者とした。また, 対照群はPEMリスク群以外の者とした。栄養状態と舌圧との関係を検討し以下の結果を得た。
1. 運動範囲が良好であった者は舌圧が高値を示し, 運動速度に関しても同様であった。
2. 調整食を食べている者, むせのある者, 食べこぼしのある者は舌の運動機能が低下していた。
3. PEMリスク群の舌圧は対照群に比べて低値を示していた。
4. ADLと舌圧との関係に有意な相関を認めた。
以上より, 口腔機能とくに舌の機能は要介護高齢者の栄養状態と関連を示しており, 低栄養の予防のためには, 全身の筋力強化と同様, 舌に対するリハビリテーションが必要であることが示唆された。
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