2025 年 63 巻 3 号 p. 389-396
症例は50代男性。検診の上部消化管内視鏡検査(EGD)で胃穹窿部前壁に隆起性病変をみとめた。経過観察の方針となり, 1年後の検診EGDが施行された。隆起性病変に明らかな増大はみられなかったが, 辺縁がやや隆起をした発赤調の不整所見を呈していた。生検が施行され, 胃型腫瘍と考えられた。後日施行された精査EGDでは, 粘膜内にとどまる胃癌と診断され, 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)が施行された。なお, 各種検査結果から背景胃粘膜はヘリコバクター・ピロリ未感染と考えられた。ESD検体は, 病理組織学的に, 主細胞および壁細胞に類似した細胞が不規則な分枝構造を示して増殖し, 粘膜下層深層への浸潤(SM2)がみられた。免疫染色では, 腫瘍細胞はMUC6, Pepsinogen I, H+/K+-ATPase, MUC5ACに陽性であり, 主細胞および壁細胞のみならず腺窩上皮への分化も併せ持っていた。これらの結果から胃底腺粘膜型腺癌と診断された。粘膜下層浸潤(SM2)かつ垂直断端陽性であったことから追加胃切除術が施行されたが, 腫瘍遺残やリンパ節転移はみられなかった。検診EGDで診断しえたピロリ未感染を背景とする胃底腺粘膜型腺癌の1例を経験したので報告する。