がん化学予防は薬剤など化学物質を用いたがん発症予防方法であり, がんの1次予防に含まれる。また, がん予防戦略の中ではハイリスク・ストラテジーに該当し, がんリスクの高い「高危険度群」を主な対象としている。我が国にはこれまで薬事承認されたがん予防薬がないために, 製薬企業もビジネスモデルにならないと事業化を諦めているのが現状である。そこで我々の研究グループでは, 大腸がんの高危険度群の一つである家族性大腸腺腫症患者を対象とした〈我が国1剤目のがん予防薬を世に出すこと〉を目標にがん化学予防薬の開発を行っている。がんゲノム医療時代の次には個別がんリスクに応じたがん予防医療時代が到来するのは自然な流れと考えており, 大腸がん予防薬としてのアスピリンは良きモデルケースとなりうるため, ここに大腸がん化学予防の現状を, ひいては天寿がんというコンセプトを紹介する。
【背景】対策型胃がん検診の指針改訂に伴い, 対象年齢に満たない世代の胃がん高リスク者に対する効率の良い救済策として, 胃がんリスク層別化検査(ABC分類)が期待されている。
【対象と方法】福岡市では2018年7月から満35歳, 40歳を対象に胃がんリスク検査を開始した。実施施設は登録説明会参加を必須条件に, 消化器専門問わず手上げ方式とした。
【結果】3年9ヶ月間で8,223名が受診(受診率4.5%)した。女性, 35歳の受診率が有意に高率であった。層別化結果はA群6,702名(81.5%), B群1,128名(13.7%), C群374名(4.5%), D群19名(0.2%)で, BCD群に該当した要精密検査者1,521名中889名が精密検査を受診した(精検受診率58.4%)。精検受診率は内視鏡実施可能な消化器専門施設で59.4%と低率で, その他の施設56.7%と差を認めなかった。除菌治療は630名に施行され, 腫瘍性病変は発見されなかった。
【結語】精検受診者の約70%に除菌治療が施され, 事業として一定の役割は果たせたものの, 受診率や精検受診率向上に向けた広報, 教育体制の見直し, 運用の標準化が必要と考えられた。
腎の撮像法を極めるためには超音波手技をマスターすることが大切である。腎の超音波基本手技は縦走査と横走査による2方向からの観察であり, 体位変換や呼吸法を上手に利用して腎臓をくまなく観察することが求められる。観察のポイントは大きさや形態, 皮質や髄質のエコーレベル, 腎洞異常や腫瘤性病変の有無を確認することであり, 診断能力を更に向上させるためには医学的知識の蓄積が必要である。
兵庫県予防医学協会が受託する神戸市大腸がん検診では, 受診者の60%以上が冬期限定(11月~翌年3月)の郵送方式(以下 郵送法)を利用しており, 受診率向上のためには通年の郵送法が必要と考える。今回, 栄研化学株式会社が新たに開発した採便緩衝液(以下 新緩衝液)を用いて, 夏期の郵送法の可能性を検証した。
便懸濁液を用いた現行緩衝液と新緩衝液の精密性(精密性試験)は同等であった。10種類のヘモグロビン(以下 Hb)陽性便を現行緩衝液と新緩衝液入り採便容器それぞれで採便し, 4°C~43°Cの条件下での最長35日間のHb残存率を評価(保存試験)した結果, 平均85%以上のHb残存率であった期間は, 新緩衝液で4°C, 25°Cで35日間, 35°Cで14日間, 43°Cで3日間であった。夏期に10カ所のポストに投函・郵送した後のHb残存率の評価(郵送試験)では, 最高温度は最大41.3°C, 30°C以上の持続時間は最長10.3時間であり, 新緩衝液のHb残存率は平均95%以上であった。
新緩衝液のHb残存率は, 保存試験において35°C14日間で平均85%以上, 夏期の郵送試験でも平均95%以上であった。新緩衝液は, 過酷な夏期郵送条件でもHbを安定に保つことができ, 通年での郵送法実施は可能と考えられた。