日本婦人科腫瘍学会雑誌
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シンポジウム4
血液凝固能亢進に着目した卵巣明細胞癌の遺伝子発現サブタイプの同定
田村 亮
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2023 年 41 巻 2 号 p. 133-144

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抄録

【目的】卵巣明細胞癌における血液凝固能亢進の臨床的・分子生物学的意義を明らかにすることを目的とした.

【方法】卵巣明細胞癌268例に対して,治療前D-dimer,血栓塞栓症の状態,臨床予後を後方視的に調査した.また,93例に対しRNAシーケンスを施行し,血液凝固関連遺伝子の発現を,大規模データベースを用いて2,492例の腺癌と比較した.さらに,血液凝固状態による分子生物学的特徴の違いを評価した.

【成績】治療前D-dimer上昇例は,血栓症の有無に関わらず,D-dimer正常例と比較し有意に予後不良であり,多変量解析でD-dimer上昇は,臨床進行期と独立した無増悪生存期間における予後因子であった(HR 4.10;95%CI 1.44~11.64;p=0.0078).卵巣明細胞癌は他の癌腫と比較し,Tissue factorやIL6が特徴的に高発現しており,D-dimer上昇例では正常例と比較し,PI3K-AKTやCell cycle関連経路が高発現していた.さらに,D-dimer上昇例57例の遺伝子発現は階層型クラスター解析で,T細胞浸潤,炎症,上皮間葉移行関連経路が高発現するImmune hot tumorと,Cell cycle,MYC関連経路が高発現するImmune cold tumorに大別された.

【結論】治療前D-dimerは卵巣明細胞癌の予後を予測する強力なバイオマーカーである.D-dimer上昇例における2つの遺伝子発現サブタイプの同定は,新規個別化治療につながる可能性がある.

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© 2023 日本婦人科腫瘍学会
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