抄録
MCT (Mental Cutting Test) は、多くの大学で空間認識能力やコース効果などを評価する手段として用いられている。MCTの問題は、種々な形状の立体図形とこれに交わる平面図形の輪郭を示し、切断を想定し、用意された5種類の切断面類似解図から正解図を選ぶものである。問題の意図は、イメージ切断面との照合による解図選択で、切断面への解図の照合選択的要素が強く、図の知識や応用力を基にした、論理的な思考・判断能力を測ることを目的としている。類似解には、何種類かの図学で解釈できる知識が準備されており、全ての知識を満足したものを正解として示している。それぞれの形状に含まれる知識は、長さや傾の目測比較で、簡単な論理判断で解釈できるようになっている。本研究では、問題23の誤問の可能性を指摘するとともに、付随して得られた結果について報告する。これまで、難問 (低正解率問題) は、それなりに難かしい知識を含んでいるとう見解のもとに分析を行ってきた。しかし、問題23は、分析の過程で、50%近辺からあまり正解率が上昇しないことやコースによって、Pre-Post Test結果が逆転するなどの不自然な現象が見られた。そこで、この不自然さに着目、問題自信を図学的な方法で解析したところ、立体図形上の寸法差が解図に反映されていない誤問であることが分かった。しかし、被験者がこの違いを認識できるかは、誤問と決める上で重要な要素となる。そこで、この誤問への反応確認を行った。方法は、形状の認識度チェックのため、スケッチ解、修正解の2種類のMCTを準備、結果を従来の問題と比較した。被験者の反応は、スケッチ、修正解ともに正確であった。スケッチでは、高さの差、数ミリを正確に表現されている。また、修正解では、高さを2mm変えた図で、正解率が増加しており、誤りとして考えていいことがわかった。これに付随し、MCTは、スケッチ解の正解率が極端に低下するところから、イメージできなくても、図的思考・論理判断能力のみで解けると考えられる。また、上記の反応結果から、被験者は、誤問を解くが、矛盾を感じておらず、意識の内に入ることなしに他の処理へ移り結論をだしている。このことから、メンタル図形処理には、無意識下の知識活動があることが考えられる。