図学研究
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眼鏡絵の視点について
松尾 妙子面出 和子
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キーワード: 造形論, 遠近法, 眼鏡絵
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2003 年 37 巻 Supplement1 号 p. 65-70

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抄録
のぞき眼鏡とは、西洋から伝わった遠近法を用いた絵を、凸レンズをはめ込んだのぞき穴から見る装置である。こののぞき眼鏡を使って絵を見ると、鑑賞者がまるで絵の中に入り込んだかのような錯覚に陥り、あたかも三次元の世界のような奥行き感が得られるらしい。本研究では、なぜこのような視覚効果が得られるのかを、のぞき眼鏡のために描かれた眼鏡絵と呼ばれる絵を通して考察する。そして私はのぞき穴の位置とこの眼鏡絵の視心の位置が関係していると考えそれぞれの絵を分析した。つまり、のぞき眼鏡の箱ののぞき穴に合うように、視心Vcが画面の中心に近いほど、のぞく人が絵の中に入ったかのような臨場感が味わえるはずである。対象とした眼鏡絵は、円山応挙、司馬江漢、亜欧堂田善の3人の画家の7作品である。分析の結果、描かれた絵の風景の視心Vcが、画面の中心にある絵は1枚もなかった。この分析から果たして当時の眼鏡絵にどれほどの臨場感があったのか疑問をいだいた。彼らは、視心Vcに向かって線が集まって奥行きをあらわす遠近法を経験的に知っていたが、視心Vcが絵の中心に一致しないことから、視点の位置を理論的に考えるまでには至らず、西洋の遠近法を正確に理解していなかったことがうかがえる。
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