抄録
関東地方農家世帯におけるがん死亡の特徴を把握するため,前論文では年齢階級別比較危険を解析してがん原因因子の作用年齢を推定した。本論文では農家世帯に危険が高いあるいは低いがんについて,危険の地理的分布という観点から解析した。まず,関東地方を農家人口に基づいた地域ブロックに分割し,がん死亡に対する農家のオッズ比(OR)と地域住民の標準化死亡率比(SMR)をブロックごとに計算してその結果を地図化した。 (1)農家の危険が高い胃・胆のう胆管・食道(女)・肝臓(女)のがんについて,ORが2あるいはそれ以上の地域が見出された. (2)上述の後の3部位ではORとSMRの地理分布に顕著な偏りがあり,両者が高い地域が多く見出され,そこに居住する農家の絶対的危険の高さが指摘された. (3)農家の危険が低い大腸・肺・肝臓(男)・乳房・子宮のがんについても,ORが0.5以下の地域が存在し,ORとSMRの両者が低い地域が数多く見出された.次に,ORとSMRの地理分布に基づいた原因論的解析を相関分析によって試みた.すなわち,消化器系および乳房のがんについて,地域別食物消費(農家・非農家別も含む)との関連性を検討した. (1)農家の胃がんに対する高危険は,米飯・みそ汁の多量摂取および肉・乳・卵・魚介類といった動物性脂肪・高蛋白食品群や果実類の低摂取と関連しており,地域死亡率についてもほぼ同様の相関関係を得た. (2)大腸・乳房のがんは,地域死亡率に関して動物性脂肪・高蛋白食品群が強い正の相関を示した.乳がんの農家における低危険はこれらの食品群の低摂取と関連している. (3)胆のう胆管・食道・肝臓のがんは,(1)や(2)ほど強い食品関連性を示さなかったが,胆のう胆管がんは(1)に類似した傾向を示し,また食道がんは地域死亡率のみが肉・果実類を多く摂取することと負の相関を示した.