抄録
道元は本邦禅宗の開祖の一人であり,日本に曹洞宗を導入し広く普及させた.本格的な禅寺の開設と合わせ,数々の宗教書,修道僧指南書を執筆し後世に大きな影響を与えた.著作の多くは宗教哲学的なものであるが,その中に衛生,栄養,呼吸,睡眠,感覚の認知などに関する具体的な記述も散りばめられている.特に正法眼蔵や永平廣録などには衛生,呼吸,心身の相関などに関する修行上の注意点が明瞭に記されている.栄養学や呼吸生理学が成立するはるか前から,栄養管理や呼吸法が精神状態や健康管理に大きな影響を及ぼすことを禅修練者は知識として持っていたと考えられる.たとえば,丹田(臍下部)まで及ぶような深い呼吸や呼気時に気道抵抗をかけるゆっくりした呼吸が不安軽減や肺機能維持に有効であることを指摘している.道元の古典的記述と現代の科学的知見を対比することで,衛生や栄養,感覚,呼吸などに関する当時の記述の多くが現代医学の視点からも合理的であり,実用的であることが理解される.