2009 年 20 巻 1 号 p. 41-52
本研究は、日本の医学論文を対象に文献調査を行い、生体肝移植ドナーの処遇を明らかにすることを目的としたものである。ドナーの処遇の変遷を概観すると、1989年に開始されてから2000年までは手術の実施・評価をまとめた事例報告とドナー選定基準に関する論文が主として発表されており、これらの論文の中でドナーはグラフトとして扱われる傾向が見られた。その後、成人の症例数が小児を上回るようになった2000年を境にドナーの安全性が再考されるようになり、2002年頃から具体的な安全性向上のための取り組みが展開されるようになった。今回の調査を通し、現在の自主規制に委ねている体制や、治療対象ではないドナーという存在が、移植医療の中で処遇が定まっていないことなどがケアや保障を遅らせている要因ではないかという知見を得た。医療及び社会の中でドナーという存在がどのように位置づけられるべきか検討することが今後の課題である。