本稿では、2004年関西訴訟最高裁判決後の不知火海沿岸地域住民の健康度を水俣病ステータス(MD status)という視点から検討した。調査対象者は、不知火海沿岸地域3市3町から、層別二段階抽出法によって選ばれた2,100名である。分析の結果、水俣病補償制度上の位置を示す概念であるMD statusによって住民の健康度の違いが明らかになった。MD statusによる健康度の違いは一般的な社会経済的状況や日常生活動作能力の有無などには還元できない、水俣病を経験した不知火海沿岸地域に特有の傾向を指し示す。長期間、補償問題をめぐって地域社会が混乱する状況で、住民の健康度は自分の健康度だけでなく、MD statusを共有する人や所属している地域社会の健康度とも深く関連している。生活経験や健康状態をめぐる地域社会の成員との比較による不公平感や心理社会的なストレスが、住民の健康度を低下させている可能性がある。幾重にも積み重ねられてきたMD statusの重層的な関係を踏まえた保健医療対策が求められる。
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