昭和学士会雑誌
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原著
安中散反復経口投与によるCYP3A4阻害効果
―ミダゾラムを用いた臨床試験―
戸嶋 洋和三邉 武彦木崎 順一郎小口 勝司内田 直樹西村 有希岩瀬 万里子張本 敏江川上 桃子廣澤 槙子小林 真一
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2013 年 73 巻 2 号 p. 120-128

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抄録

漢方胃腸薬の主薬成分として使用されることが多い安中散は7種の生薬を含有しているが,その生薬にはCYP3Aを阻害する成分と誘導する成分が報告されている.今までわれわれはラットを用いた実験にて,安中散反復経口投与によりミダゾラム経口投与後のミダゾラム血中濃度が上昇することを報告してきた.そこで,今回健康成人における安中散反復経口投与がCYP3A4に及ぼす影響をミダゾラムを指標薬物として検討する臨床研究を計画した.日本人健康成人男性を対象とし,試験は安中散非内服期と安中散内服期の2期にわけて実施し,先行して行われた安中散非内服期をコントロールとするfixed sequenceデザインにて,経口投与後のミダゾラム薬物動態学的パラメータに対する安中散の影響を検討した.主要評価項目として,ミダゾラム血中濃度より算出したAUC(0-8),Cmax,t1/2,tmaxを設定し,副次評価項目としてはVASによる鎮静効果ならびに安全性を設定した.まず日本人健康成人男性2名を対象としたパイロット試験を実施し,本試験におけるミダゾラムの経口投与量ならびに血中濃度測定用の採血時間など試験デザインの妥当性について確認した後,6名を対象とした本試験を実施し,パイロット試験2名と本試験6名の計8名で検討を行った.パイロット試験・本試験は実施前にUMIN-CTRに事前登録(UMIN000006655,UMIN000007982)し,昭和大学附属烏山病院臨床試験審査委員会において審査,承認された.試験の結果は,ミダゾラムのCmaxは安中散非内服期で64.99±18.61ng/ml,安中散内服期で88.66±16.73ng/mlとなり,安中散の内服により1.36倍の有意な上昇が認められた(p=0.018).同様にAUC(0-8)は安中散非内服期で192.59±78.13ng/ml・hr,安中散内服期で249.06±72.84ng/ml・hrとなり,同様に1.29倍の有意な増加が認められた(p=0.043).VASにおいては差を認めず,安全性にも問題はなかった.この結果より,安中散の反復経口投与はラットでの非臨床試験と同様にヒトでも小腸のCYP3A4を阻害し,CYP3A4にて代謝される薬物の併用によりその血中濃度を上昇させる可能性が示唆された.

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© 2013 昭和大学学士会
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