昭和学士会雑誌
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原著
PTEN(Phosphatase and Tensin Homolog deleted onChromosome 10)の発現がアンドロゲン除去療法を施行したStage IV前立腺癌の予後に及ぼす影響
松原 英司矢持 淑子塩沢 英輔佐々木 陽介太田 秀一瀧本 雅文深貝 隆志小川 良雄井上 克己島田 誠
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2013 年 73 巻 2 号 p. 76-84

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抄録

細胞内増殖シグナル伝達の経路にPTEN/PI3K/Akt(Phosphate and Tensin Homolog deleted on Chromosome 10/Phosphoinositide 3-kinase/Akt)経路があり,同経路は癌の発現・進行に重要な役割を担っているとされている1).PTENは同経路を抑制する癌抑制因子である.今回われわれはPTENの発現がアンドロゲン除去療法(ADT:Androgen Deprivation Therapy)を施行されたStage IV前立腺癌の予後に与える影響を検討した.症例は米国ハワイ州のThe Queen’s Medical Center cancer tumor registry databaseより,1992 年から2006 年の間に前立腺癌組織標本が採取され,ADTが施行されたStage IV前立腺癌192例を抽出した.さらに組織が入手可能かつ評価可能であった85歳以下で抗癌化学療法が施行されていない133例を抽出した.133例中治療前PSA(Prostate Specific Antigen)値が得られたのは108例であった.免疫組織化学的に標本をPTENで染色して0,1+,2+,3+の4段階で評価した.全生存率と年齢・治療前PSA値・Gleason score2)との関係や,PTENの発現と全生存率との関係を統計学的手法を用い解析した.年齢・治療前PSA値・生存期間の中央値はそれぞれ71.2歳,53.4ng/ml,80.4か月であった.Gleason scoreの分布は7以下が25%,8以上が75%を占めていた.PTEN 0,1+,2+,3+の割合はそれぞれ45%,8%,5%,42%であった.Stage IV前立腺癌全症例において,年齢・治療前PSA値・Gleason scoreそれぞれと全生存率の間に相関があったが,PTENの発現と全生存率の間に相関はなかった.Stage IV前立腺癌133例をJewett Staging System のStage C,D1,D2の3つのサブグループに分けて解析したところ,Stage D2群においてPTENの発現と生存率の間に相関がみられ,Gleason scoreとPTENの発現は多変量解析でそれぞれ生存率との間に相関がみられた.PTENの強い発現は,Stage D2前立腺癌の予後因子である可能性が示唆された.Gleason scoreとPTENの発現はそれぞれ独立した予後因子である可能性も示唆された.

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© 2013 昭和大学学士会
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