精神科慢性期病棟A病棟は,1年以上の長期入院患者が約64%を占めており,この現状を改善すべく2015年度より多職種による退院支援強化の取り組みを開始した.本研究は5年8か月に及ぶ長期入院生活のなか,自宅退院に向けて援助を継続した事例である.退院への不安を抱える長期入院患者B氏の地域移行が,多職種連携による取り組みにより実現した.この取り組みにどのようなエッセンスや効果があったのか,退院支援の実践結果を明らかにし,今後の長期入院患者に対する退院支援への課題を検討する.効果的な支援のエッセンスを抽出したところ「フォーミュレーション」「自己効力感へのアプローチ」「退院支援ミーティング(第三者としての医療スタッフの加入)」「再入院の保障」の4つとなった.長期入院のB氏は病院という環境への慣れから持てる能力を十分発揮しているとは言えない状況であった.しかし,退院したいという意向を大事にして,多職種で各々の職種の特色を生かして支援することにより,B氏を退院に導くことができた.さらに長期入院患者の多職種退院支援の4つのエッセンスを今後の支援に向けた指標として明らかにすることができた.本事例では,第3者である医師の後押しが保護的な環境からの脱却の契機になっていたが,こうした第3者性をどのように活用していくかが今後の課題である.本研究における多職種とは,医師,看護師,精神保健福祉士,作業療法士,薬剤師,退院支援相談員のことである.